第25話 撫で斬り型の特性
「ぶるるっ・・・何だ、急に寒気が」
オレは悪い予感を感じとって身震いした
「どうしたんですアッシュ?」
「いえ、何でもないです先輩。続きお願いします」
「そうですか?じゃあ、次は私が使っていた刃のタイプ…撫で斬り型ですが、この形状は断ち切り型の様に重心位置の効率化で叩き斬るのではなく、刀身の反りを利用して切り裂く様にできています。この様に・・・」
先輩は木箱に断ち切り型の刀身を当てた
「カツン」
「刀身を平面に当てると分かりやすいのですが、断ち切り型は先端の刃が膨らんだ部分だけが箱の当たります。力が一点に集中するので深く食い込むのですが、場所が限られてしまいます、動く相手に当てるのは難しいので実際は膨らみから下の斜めにまっすぐ伸びた刃で引っかける様に切ることになるでしょう」
「コツ」
先輩は膨らみから下の刃を箱の平面にピタッと合わせる様に当てた
「この刃で斬ろうとすると、人間の首や手足の先などの比較的細い円錐状の物体なら掻っ切る事が出来るでしょうが、胴体など大きな面積の物に当てると刃に当たる面積が大きくなり斬撃の力が分散し上手く切るのは難しくなります、中途半端に食い込めば大きな隙が出来てしまいます。その点撫で斬り型は・・・」
「カツンッ、グリグリ…」
先輩は撫で斬り型の刀身を箱の面に当て、刃の先から根元まで当てる様にグリグリと動かした
「この様に刀身の反りにより刃に丸みが生まれ、刃のどの部分を当てても丸みの頂点が当たり力が分散せず一点に集まります。また、反りによって斬撃の余分な力を逃がしながら引き切ることが出来るので、食い込むリスクを減らしながら深く切り裂く事が出来ます」
「馬上での戦いでも有利なんでしたっけ?馬で突進しながら斬り付けても負担が少ないからとか」
「ええ、基本的に騎兵の武器はリーチが長く打撃力があるランスが主流ですが、軽装騎兵では撫で斬り型のサーベルを使う例があります。まあ、決闘ではフルプレートの鎧を着た相手には効果が薄いので、相手の武器を刀身で捌いて、すれ違いざまに柄やナックルガードで頭部をぶん殴る戦い方になりますが、相手が軽装でなければ中々斬る用途で使われないのが実情ですね。刀身の真直ぐな刺突に特化した剣を携帯している場合がほとんどです」
「戦場じゃ剣なんて槍とかメインの武器が使えない時の非常用ですからね。やっぱ鎧のすき間を刺せる武器か・・・断ち切り型の様に打撃力があった方が・・・」
「一応、撫で斬り型にもミネ打ちで打撃を与える技はあるんですよ。ミネ打ちでは逆に力が逃げませんから騎馬戦では後頭部を狙いますが。それと、騎馬戦では使いませんが、このタイプで忘れてはいけないのはこの反りを利用した突きです」
「反りを利用した突き?」
「はい、サーベルと違い、このメッサーの刀身の先には短いですが裏刃がついています。裏刃の使い方は教えましたよね?」
「へい、ロングソードを教わった時に・・・」
裏刃、両刃の剣を構えた時に相手に向いている方を表の刃とし、自分に向いている方を裏刃と呼ぶ
「裏刃にはどんな使い方がありましたか?思い出しながらこのメッサーの利点を考えてみてください」
「えっ、はい!表に刃が鈍くなった時に予備として切り替える・・・相手の攻撃を表の刃で受けながら裏刃で引っかける様に斬り付ける・・・・裏刃は角度のついた斬撃ができるから・・・あ!盾などの相手の防御を搔い潜った鎌の様な斬り付け方が出来ます!」
「正解です。この反りのお陰で相手の防御を回り込むような攻撃がし易くなっています、これが私がこのタイプを気に入っている理由ですね」
「なるほど!よくわかりました先輩!」
横から親方が茶々を入れて来た
「力が無いから相手の攻撃を受け流したり、防御を搔い潜った攻撃しかできないのが本音だろ小僧」
先輩はそんな茶々に堂々と答えた
「当然です、自分にあった武器が分からなくて何が武器屋ですか」
「ハハハ!その通りだ小僧!たく、なんでその辺りだけはしっかりしてるんだか」
「だっけってヒドイですよ親方ぁ~!」
オレはその光景を笑って見ていたのだが・・・一つ引っかかることが
「ははははぁ・・・あれ?オレが断ち切り型を気に入ってる理由って…」
オレの疑問に二人は即答した
「体力バカだからでしょう」
「技術不足を体力で補えるものを直感的に選んでたんだろうな」
オレは二人の返答に突っ込んだ
「ひでぇ言いぐさですね二人とも!」
「武器屋なら理屈で武器を選べるようになれヒヨッコ!ハハハハ!」
「精進あるのみですねアッシュ、フフフ・・・」
「小僧は体力不足だがな!」
「そうでした、ハハハ!」
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