第21話 素振りの練習
オレと先輩は腰に剣を下げ、素振り用のガイドから離れて互いにぶっつからない様に並んだ
「抜刀!」
先輩の掛け声とともに、鞘からファルシオンを抜き第一の構えを取った
「シャッ!」
ウチの工房の戦術で言うところの第一の構え、鞘から抜いた剣を最も早く構える事が出来る為、一番最初に取ることが多い構えである
「チャキンッ」
左腰の鞘から剣を抜きながら、右足を後ろに下げ半身になり、切っ先は前に刃が上を向く様に剣を構え、握った手は頭の後ろに来るようにし、左腕は斬られない様に腰の後ろに回す。
「1!」
1の掛け声と共に右足を前に出しながら、剣を突きのフェイントを入れながら手首を返し、ガイドの線に沿って自分から見て右斜め上から左斜め下へ切り下す。前へ出た時右手が前へ出る半身の状態に切り替わる
「ビュン!」
足を前に出して前進してから斬るのではダメだ。前進した力が剣に伝わり、重心が剣の最も威力が出る物打ち部分に重心が移動しするイメージで降らなければ威力が出ない。移動と攻撃ではなく、移動が攻撃の動作の一部として考えてしっかり連動する様に振る
「2!」
2の掛け声と共に後ろの左足を前によせながら、振り下ろした剣を顔の左脇で回す様に振りかぶって、右足を前に出し左斜め上から右斜め下に切り下す
「グゥン!」
「っ!」
太刀筋が乱れてしまった。刃筋が乱れると剣を振った時に、風を切り裂く音に違いが出るのですぐ分かってしまう。刃筋が綺麗に通るとビュンと良い音がする
「3!」
3の掛け声で2と同じ動作で前に踏み込みながら右斜め上から左斜め下へ切り下す
「ビュン!」
今度は上手くいった。次の号令に備えて気を引き締める
「1!」
1の号令が再び出る、この時は逆に後ろに下がりながら攻撃する
「ビュン!」
右足を後ろに引きながら回す様に振りかぶり、左足を後ろに踏み込んで左斜め上から右斜め下に切り下す。この時、右手が前に出る半身の状態のままだ
「2!」
再び後ろに下がりながら切り下す
「ビュン!」
後ろに下がりながらの攻撃はちょっとコツが要る、後ろに下がる力を利用しながら降らなければいけないからだ
「3!」
俺の感覚としては、下がる時に剣を前に置いていく感じだ。前に振られた剣と共に腕が伸びる、その伸びた時に後ろに下がる力で、肩を支点にして剣が円を描く様に勢いよく振られる。遠心力を利用するってヤツだ、剣を前に振る力と後ろに下がる力が見事に合致すれば、下がりながらも力強い斬撃だ出せる。
「ビュン!」
まあ感覚の問題なのでだいぶ個人差があるだろうが、オレはそんな感じだ
「1!」
1の号令で再び前へ出て攻撃する動作に戻る。1、2、3と前に出て、1、2、3と下がるのを繰り返すのだ
「2!3!・・・」
オレと先輩はこの素振りを50セットほど繰り返した
「ここまで!はぁ…はぁ…」
「ふぅ…お疲れ様です先輩!」
「お疲れ様ですアッシュ…はぁ」
息を切らせる先輩にどっからか怒号が飛んだ
「お疲れじゃねえ!なに素振りで息切らしてんだ小僧!」
怒号の正体は親方だった
「す、すみません親方!」
「まったく…ほれ水だ」
「あ、ありがとうございます」
「ほれ、ヒヨッコも」
「ありがとうございます!」
親方は革の大きな水筒とコップを持っていて、俺達に水をくれた
「で?この後はどうする気なんだオメェら」
「私が刃の特性を実施しながらアッシュに教え直そうかと・・・」
「そのヘロヘロの状態でか?まったく、体力がさらに落ちてるじゃねぇか」
「すみません・・・」
「昨日も言ったが、お前は体力さえあれば独立して商売しても良いレベルなんだから、そっちに力を入れろよ」
親方の言葉にオレは驚いてしまった
「え、ええ!?そうなんですか親方!」
「そうなんだよ!まったく…体をいたわる事を覚えやがれってんだ」
先輩が申し訳なさそうに頭をかきながら言った
「すみません親方、資料を読んでたりするとつい徹夜してしまって・・・」
「寝ろよ!しっかり!」
「昨日は5時間しっかり寝ましたよ」
「8時間は寝てくれよ!まったく」
「ハハハハ!」
そんな先輩と親方のやり取りをオレは笑いながら聞いていた
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