――ファルシオンとグロス・メッサー編――

第20話 朝、工房の裏庭で

「ん…眩しい・・・あさぁ?・・・よいしょっと」


 オレは東向きの窓から差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。この東向きの窓がついた寝室の構造は一般的な庶民の家の作りで、曇ってない限り朝日が天然の目覚ましになる。朝起こしてくれるメイドや家族、飼っている動物の居ない独り者のオレには非常に有り難い作りである


「ふぁ~…顔を洗うか」


 朝起きたオレは顔を洗い、買い置きしていたパンと果物で適当に朝食をすませた


「もぐもぐ・・・ゴクンッ。うっし!工房に行くか!」


 訓練をするため工房の裏庭に向かう、裏庭に入るとブルーノ先輩が壁に素振り用のガイドを壁に立てかけていた。先輩は入って来たオレに気づいて振り返った


「あ、おはようアッシュ」


「先輩おはようございます」


「ガイドを立てかけておきましたので、自分に合わせて調整してください」


「はい、中心を自分の心臓の高さにするんでしたよね」


 素振り用のガイド、正確な刃筋で切りつける為の基礎練習に使う道具で、縦長の長方形の中に縦、横、斜めの真直ぐな線が放射状に描かれている


「よっこらしょっと・・・高さはコレでよしっと」


 刃は真っ直ぐ対象に当てないと切ることができない。刃が斜めに力が入った状態で当たると刃が食い込まず最悪跳ね返ったり、中途半端に切れる事になる、刃筋が歪んでいる、太刀筋が乱れていると言うヤツだ


「できましたか。あそこに練習に使う剣が数種類置いてあるので好きなのを使ってください」


 今からやろうとしているのは、刃に対して真直ぐ力が入る様に振れるようになる為にガイドの線に沿って素振りをする事で刃筋のしっかり通った斬撃を出せるようにする基礎トレーニングだ


「はい、オレはこれにします」


 オレは先端に向かって幅が広くなっている肉切り包丁の様な刀身のファルシオンを手に取った。ファルシオンは斬撃の特化した片刃の片手剣である


「断ち切り型の刀身を選びましたか」


「ハハハ、デカいと強そうですから」


「じゃあ私はこれを」


 先輩はサーベルの様に反りがある刀身で先端のミネのの部分が抉られている様に削られて刃がついているメッサーを手に取った、ファルシオンとメッサーはほとんど同じものだが握りの構造が違い、メッサーの方が安価な作りになっている


「撫で切り型ですか」


「ええ、私はこっちの方がしっくりくるんですよ」


「へー、オレそれの良さがイマイチしっくりこないんですよね・・・」


「じゃあ後でこれらの刃の特性のおさらいをしましょうか。親方からも改めてしっかり教えるように言われてますし、できるだけ実践しながらと・・・」


「アハハ、了解しました」


「まずは素振りを始めましょうか」

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