第564話 フィーナの冒険 4
男たちは結局、フィーナにすべての事情を話した。
それぞれ大事な人たちが病に
そのため、マリアの協力を得たかったが、それすらできそうにない状況であることも話した。
マリアの立場からすれば、過激な行動を取る彼らに協力することは、世間的に難しい。彼女にも立場というモノがある。
それも、生半可ではない立場である。迂闊な行動はとれない。
しかしフィーナはそんな母の立場に憤慨していた。
「こまっている人を助けないなんて、ママひどい!」
「そりゃ、聖女の立場からすれば、俺たちみたいなのは助けられんさ。だからお嬢ちゃんを人質にして治してもらおうと思ったんだ」
「無茶なことだと思うけどな。下手したら……いや、多分俺たちはライエルに殺されるなぁ」
「しかたねぇさ。母ちゃんの命には代えられねぇ」
自分の命すら投げ打つ覚悟の三人を見て、フィーナは決断した。
父や母の事情よりも、彼らを助けようと。
「わかった。わたしもきょーりょくする!」
「へ?」
「いや、嬢ちゃんがいくら協力してくれても……」
「まず、このばしょがよくないの。こんな見え見えのほったて小屋じゃ、すぐみつかっちゃう」
「そ、そうなのか? いや、そうではなく!」
「白いかみさまがいってたの。『木をかくすなら、もりのなか』だって」
縛られたまま勢いよく捲し立てるフィーナに、三人は完全に気圧されていた。
「あと白いかみさまは、やまがりのときは一度ほういをやりすごしてから、また山にもどるとみつからないっていってたよ」
「ふむふむ?」
「つまり今回のばあい、むしろおうちにちかいばしょの方がみつからないの」
「なるほど」
「そうね、たとえば……あの、このろーぷほどいて? にげないから」
「お、おう」
毒気を抜かれた男たちは、言われるままにフィーナのロープを解く。ついでにカーバンクルのロープも解いて解放した。
解放されたカーバンクルは飛び退くように男たちから距離を取り、威嚇の体勢を取った。
「カッちゃん、ダメ。わたしはこのおじさんたちをてつだうから」
「キュウウゥゥゥ」
「いーの! このままだとおじさん、かわいそうじゃない!」
「クゥゥゥ」
本当にいいのかと言わんばかりに首を振るカーバンクルを、フィーナは決然と無視する。
「ちなみにおじさん、ここどこ?」
「村外れの猟師小屋だ。多分獲物の解体とかに使っていたんだろうな。確かに早く移動しないと、すぐに見つかるだろうな」
「むらのなかにはもどれる?」
「ああ。柵を修理した場所を見つけたんだが、そこが雑な修理をしてたから、そこからな」
「じゃあ、そこからいったん、むらのなかにもどろう。んでね、んでね、おうちにものおきがあるから、そこにかくれるの!」
「物置ぃ?」
確かに誘拐犯が拉致した人物の屋敷の物置に隠れるとは、ライエルも思わないだろう。
しかしそれでは、いくらなんでも雑過ぎる。
「いや、俺は地属性魔法が少し使える。物置の床を引っぺがして、地下に隠し部屋を作れば意外とバレないかもしれないぞ」
「隠し部屋って、そんな簡単に作れるのかよ?」
「
「トイレとかどうするんだよ?」
「ライエルの屋敷は水道設備が整ってる。屋敷から排水路に繋がってるから、地下室をそこに繋げばいい」
「色々問題はあるかもしれんが……敵の足元に潜むのは面白そうだな」
「そうと決まれば、移動するぞ」
男たちはほとんど荷物をもっていなかったので、鞄一つ持って立ち上がる。
フィーナもまた、荷物は持っていない。その彼女をトロイが軽々と抱き上げる。
「きゃっ!?」
「子供の足だと間に合わないかもしれないからな」
「うん、ありがと」
不安定なのか、首元に腕を回してしがみつくフィーナ。その仕草は病に臥せる彼の娘を思い出させ、一瞬足を止めた。
「トロイ、行くぞ」
「あ、ああ。すまん」
そんな妄執を振り払うかのように頭を振り、トロイは小屋から出ていったのだった。
目立たないようにフィーナにフードを被せ、四人と一匹は再び村へと戻った。
時間はそれほど経過していないので、まだ陽が傾き始めたばかりだ。
人目を避けるように動くと余計に目立ってしまうので、開き直ったように堂々と村の中を進んでいく。この辺りのクソ度胸とも取れる開き直りは、ある意味非凡な才能と言えるかもしれない。
それに、市が立っているので村の中は人通りが多く、子供を抱えた男など、珍しい光景ではない。
彼らは堂々とライエルの屋敷の裏庭の植え込みまでやって来て、周囲を確認した。
珍しく市が来ているとあって、すでに大半の村人はそちらに向かっている。つまりライエルの屋敷近辺には、ほとんど人がいない状況である。
それを確認してから植え込みを乗り越え、裏庭に入り込む。
「こっち。あそこがものおき」
「ああ」
「こえはおさえてね。まだてぃなーがいるから」
「てぃなー?」
「こるてぃなおねーちゃん」
「六英雄じゃねぇか!?」
声を潜めて叫ぶという器用な真似をしたトロイだったが、それが屋敷内に届くことはなかったようだ。
六英雄を敵に回すとあって、やや腰が引けた三人ではあるが、考えてみればフィーナに手出しした段階でライエルとマリアを敵に回している。
もはや失うものは何もないと、再び開き直って行動を開始した。
先ほどの叫び声でも特に異変を感じなかったので、フィーナの先導のもと物置へと向かう。
ライエルは村の子供たちに剣術を教えているので、屋敷の物置は結構な大きさがあった。
中にはケラトスのヒゲで作った練習用の模擬剣なども大量に置かれており、雑然としている。
この中で一部の床板を剥がし、そこに地下室を作ったとしても、早々発見されることはないと思われた。
「よし。こっちの隅なら、穴を掘ってもバレなさそうだ」
地属性魔法が使えると主張したゼルが適当な場所に目星をつけ、ジョーンズが指示通り床板を剥がしにかかった。
この屋敷も、建てられてから結構な年月を経ているので、床板もかなり傷んでいる。
おかげでそれほど大きな音を立てずに、床板を剥がすことができた。
「あとは……ゼル、頼むぞ」
「ああ、任せろ」
ゼルはそういうと小声で呪文を詠唱し始める。魔法は問題なく発動し、幅一メートル、深さ五メートルほどの縦穴を生み出していた。
「これ、狭くないか?」
「このままなわけないだろ。後は下に降りて地下空間を拡張するんだよ」
そういうと穴の中に飛び降りるゼル。その間にも、ジョーンズは細かく荷物の位置を微妙にずらし、入り口から穴を開けた場所が見れないように細工していた。
「トロイ、この衣装箱をずらしてくれ。俺たちが隠れた後、こいつで入り口を塞いで隠すから」
「ああ、わかった」
「わたしもてつだうー」
「きゅきゅ!」
事ここに至っては、もはやヤケクソになったカーバンクルが、魔法で補助し、重い衣装箱を移動させる。
その間にゼルが地下を十メートル四方にまで拡張し、立派な地下室が生まれていた。
「トイレはこっちの穴な。水はゼルが魔法で出すから」
「おふとんないね?」
「そんなに長居する気はないけどな」
「寝袋ならあるから、それで我慢してくれ」
「やったー」
だんだん楽しくなってきたのか、フィーナはキャンプにでも来たかのように両手を上げて喜びを表現している。
自分の誘拐事件に率先して協力しているフィーナを見て、男たちは呆れたように顔を見合わせたのだった。
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