第540話 仲間たちとの別行動
その日は久しぶりに自宅の屋敷に戻り、一泊することになった。
ミシェルちゃんやクラウドは、ストラールの街に置いてきたままなのだが、あの二人はガドルスが面倒を見てくれているので、特に問題はあるまい。
フィニアも今回の帰省についてきているのだが、あまり表立って目立つ真似はしていない。
これは彼女が俺の正体を知り、そしてそれがコルティナに対しての後ろめたさに繋がっている影響でもある。
マリアやコルティナに対しても、俺の正体を話せないということが、彼女の行動から積極性を奪っていた。
そんなわけでフィニアは少し、俺から距離を取っていた。
夜、俺はウキウキした気分でフィーナと遊ぼうと、子供部屋を訪れようとしたところを、マクスウェルに捕縛された。
「なんだよ。俺はこれからフィーナとイチャイチャしてくるんだから、邪魔するな」
「堂々と惚気るか。コルティナが聞いたら悲しむぞ」
「うっ、それはそれ、これはこれということで」
「まあいいわい。それより話があるので、少し付き合うがいい」
マクスウェルが俺に話があるというのは、そう珍しいことではない。
俺の正体に繋がる話もあることだし、密偵や暗殺者としての話だってある。
マクスウェルの借りた客間に案内され、俺は話の内容を尋ねる。
「で、なんのようだよ」
「ウム、今回の話はそう難しい話ではないぞ。お主の干渉系魔法についての話じゃ」
「俺の? わりと順調に習得してきてると思うが」
「ワシも今まではそう思っておったんじゃがな。さすがにコルティナが可哀想での」
そこまで言われて、俺は不承不承ながら納得する。
今コルティナと会えるのは月に一回だけ。しかもこの二か月は禁止令が出ていて顔も合わせていない。
元々俺の都合で可哀想なことをしている自覚があるだけに、これにはぐうの音も出ない。
「そこで本格的に
「修業って言われてもな。もうラウムに戻るのも危ないだろう?」
俺はもとより、ミシェルちゃんも貴族に目を付けられている立場だ。
特にエリオットが結婚した現在、俺は晴れてフリーの立場にいる。求婚を求める貴族が殺到してくることは目に見えていた。
それにミシェルちゃんもその戦闘技能の高さから、注目の的になっている。
クラウドだって、あの年齢で四階位などエリートもいいところだし、フィニアに至っては、実力も外見も淑女振りも、文句のつけようがない。
変な陰謀劇に巻き込まれる危険性は、決して小さくない。
「どうせレティーナ嬢をストラールに送る用があるんじゃから、首都でやればよいじゃろ。ついでにフィニア嬢にも教えを授けてやろう」
「それは出向く必要が無くてありがたいが、レティーナが大人しくしてくれるかなぁ?」
レティーナが遊びに来ているのに、俺とフィニアが修業中になってしまう。それは爺さんも、俺たちの修行に付き合うということでもある。
婚約者を放り出して他の娘と修行というのは、どこか問題があるような気がする。
レティーナから嫉妬されるような立場には、立ちたくはない。
「それに関しては、ワシに考えがある」
「爺さんの考えでいい目を見たことが、ほとんどねぇんだが……」
「バカにするでない。ちゃんと考えておるよ。正確には、お主とフィニア嬢をワシが預かる代わり、レティーナとマテウスをパーティに入れてお使いを頼もうと思っておってな」
「人員の入れ替えか?」
「そうじゃ。ミシェル嬢もクラウドも、基本お主としか組んだことがない。それは彼女たちのためにもならんじゃろ?」
「まあ、そりゃあな」
俺としか組んでいないということは、冒険者としての懐の深さにもかかわって来る。
俺との行動に最適化され過ぎて、他の連中と組めなくなる可能性があった。
現に、レティーナにはその影響が顕著に表れているらしかった。
「マテウスはああ見えて経験豊富じゃ。逆にミシェル嬢とクラウドは実力のわりに経験が偏っておる。お主が生前、ガドルスに指摘されたようにな。この機会にマテウスやサリヴァンなどと組ませるのも、悪くなかろう」
俺が死ぬ直前、新人と組まされた際に、俺が何でもやり過ぎると指摘されたことがある。
元々単独行動が多かったための弊害でもあるのだが、生まれ変わった今でも、その悪癖は残っているようだった。
俺がミシェルちゃんやクラウドに懇切丁寧に指導するあまり、彼女たちは俺と組むことに特化しつつある。
それは俺以外と組むときに、害になり兼ねなかった。
「マテウスは……大丈夫なんだろうな?」
「もちろん。
かつてクラウドと殺し合った経験のあるマテウスだ。クラウドはいまだに奴を苦手にしている節がある。
マテウスも飄々とした男だが、そういう相手になんの思惑も持ってないとも思えない。
もしそういった感情のもつれから、俺のいない場所で殺し合いに発展したらと思うと、少しばかり心配になってしまう。
しかしマクスウェルが
なにせこの爺さんの
素人なら一瞬で死に至りかねない苦痛を受けるのだから、マテウスも下手なことはすまい。
「それなら、まあ大丈夫か? わかった、しばらく世話になることにするよ」
俺としても
それにライエルに変身して俺の力を使うという切り札を得た今、自力変身は危急の案件とも言えた。
「承知。では早速、今晩から始めるとしようかの」
「え、ちょっと待って。俺にはフィーナと遊ぶという目的が……」
「まさか、明日から頑張るとか言わんじゃろうな?」
「いやいや、そういうわけではないけどね。ほら、俺にも癒しとか必要だし」
「お主もぐうたら振りが板についてきたようじゃな。ここいらで叩きなおすのも悪くないのぅ」
「勘弁してくれ!?」
俺の悲鳴を無視して、マクスウェルは肉食獣のような笑みを浮かべる。
奴の言うことに利がある以上、俺には逃げ道などあろうはずがなかったのだった。
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