第463話 魔眼対策

 ストラールに戻って数日。

 ベリトでは散々な目にはあったが、ありがたい副産物も発見した。

 俺の右目の眼帯。魅了の力を封じるこの魔道具は、俺への興味を逸らす力もあるのか、この街を一時的に離れる原因となった告白ラッシュが一時的に収まっていた。

 ミシェルちゃんやフィニアは以前と変わらないペースで告白されているようだが、最も多かった俺へのものは大きく数を減らし、彼女たちと同じ程度に減少していた。

 おかげで煩わしくはあったが活動に支障が出るほどではなくなり、多少マシな生活を送れるようになっていた。


 しかしそれはそれとして、俺たちにはもう一つ、別の問題が存在していた。

 それはやはり、俺の魅了の力である。

 眼帯を外せば周囲の視線を惹きつけ、声に出せば他者の意思に干渉することすらできてしまう。

 しかも、もとより好意を持つ者が影響を受ければ、その好意を暴走させる可能性もある。

 つまり同じパーティに存在し、俺に好意的なフィニアやミシェルちゃんが危険になる可能性があった。

 戦闘中にうっかり眼帯が外れ、その力に囚われたら非常に危険だ。

 その対策は打っておかねばならない。


「というわけで、これを用意してみた」


 俺はガドルスの宿の食堂に四人を集め、テーブルの上に四つの銀の指輪を並べて見せた。

 昼をかなり回ったの時間なので、すでに食堂に人の姿は少ない。

 装飾品だけあって、フィニアとミシェルちゃんの目は釘付けになっている。

 やはり女性に指輪は反応がいいようだ。


「これって魔道具だよな? あらがいの指輪か?」

「そうだよ」


 唯一その外見に心を乱されなかったクラウドが、そのアイテム名を言い当てる。

 この銀の指輪は、精神的な抵抗力を向上させる魔法が込められている。

 ある程度精神的な攻撃を受け続けると破損してしまうが、非常に有用な魔道具で知られていた。


 冒険者は様々なトラブルに首を突っ込み、様々な敵と剣を交える。

 中には物理的な攻撃ではなく、精神に攻撃を仕掛けてくるモンスターも存在した。一部の不死者アンデッドなどは威圧や魅了などを仕掛けてくることがある。

 そういう時にこの指輪を着けていると、多少は耐えられるようになるのだ。

 他にもドラゴンなどの高位モンスターだと、特殊能力ではなく、その存在自体が威圧を放つ場合もある。双剣の魔神なども、その力を持っていた。

 腕前が上がれば上がるほど、需要が増していく魔道具。それがこの抗いの指輪だ。

 一部の冒険者は、この指輪を装備できるほど稼げて一人前、という噂すらある。


「結構高いんじゃなかったっけ? 俺たちなら買えないわけじゃないけど、馬車買ったから少し厳しいんじゃない」

「まあ、追加報酬があったからね。そこから出して買い揃えたんだよ」

「ああ、荷物を多めに運んだから」

「わたしの目のことも有るし、こういうのを身に着けてもいい頃合いじゃない?」

「確かにこの街での知名度もかなり高くなってるしな」

「というわけでわたしの奢りだ。受け取れー」

「やったぁ!」


 俺の言葉に真っ先にミシェルちゃんが反応する。

 あの食欲が存在の九割を占めていた彼女が、色気付いたものだ。

 フィニアもいそいそと手を伸ばしている。曇りのない銀の指輪を手に取り、迷うことなく左手の薬指に――


「待ったぁ!?」

「キャッ、なんですかレイ――ニコル様!」


 俺は飛びつくようにフィニアの右手にしがみつき、その行為を止める。

 唐突に身体全体を使って止めに来た俺に、フィニアは驚愕の声を上げる。


「なぜその指に嵌めようとした?」

「え、当然じゃないですか?」

「その理屈がわからない!」


 俺は全力でフィニアの腕を左手から引き剥がそうとするが、彼女にしては珍しく、これに抵抗してきた。しかも全力で。

 強化しないと非力な俺と、種族的に非力なフィニアの筋力が拮抗している。


「て、手を放してください、ニコル様……」

「ぐぬぬぬ……断固として断る!」

「こればっかりは譲れません!」

「さすがにコルティナに悪いと思わない!?」

「それとこれとは話が違いますぅ!」


 俺とフィニアがすったもんだしているのを、クラウドは呆れたような視線を向けながら、自分の右手人差し指に指輪を着けていた。

 この指輪は魔道具だけあって、多少のサイズなら自動で補正してくれる機能がある。

 男のクラウドの指にもちゃんと嵌り、最適な大きさに納まる。

 そしてここで沈黙していたミシェルちゃんも左手に指輪を着けていた。もちろん薬指。


「ああっ、いつの間に!?」

「えへへ、ニコルちゃんのプレゼントだからここに着けるのは当然だよね」

「その理屈はおかしいよ!」

「待ってください、ミシェルさん。私を差し置いてそれは許せません。さすがに! ぜったいに!」

「えー、いいじゃない」

「でも、フィニアも同じところに着けるんでしょ? ならミシェルちゃんの相手と思われちゃうかもね」

「な、なんですって――!?」


 フィニアは絶望したかのような表情を浮かべる。

 彼女は別にミシェルちゃんが嫌いなわけではない。レイドと違う人物に対する勘違いを許容できないだけだ。

 ミシェルちゃんはそれが気に入らないのか、プゥっと頬を膨らませる。

 いろいろあったが、俺の仲違いを誘発させる発言による離間の計は、どうやら成功したようだ。

 フィニアは微妙な表情をした後、おとなしく左人差し指に指輪を着ける。


「ミシェルちゃんに他意はありませんが、わたしはニコル様以外の方と勘違いされたくないので」

「まあ、それはわかってるけどぉ」

「計画通り」


 ニヤリと笑う俺に、クラウドは溜息を吐く。多少ムカつきはしたが、料理を運んできたガドルスも同じように呆れたような溜息を吐いていたので、さすがにクラウドだけを非難するわけにはいかなかったのである。


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