第424話 アヤシイ店員
「なんでこんな時間にやってんだ?」
俺は頭に思い浮かんだ疑問を、そのままぶつけてみる。
しかし破戒神はその言葉を受け、不満そうに唇を尖らせた。
「質問に答えるのはやぶさかではないですが、その口調はいけませんねぇ」
「中身が男だからいいんだよ」
「いい加減諦めて堕ちちゃいません?」
「堕ちるってなんだよ!」
不穏なことを口にする破戒神に、ひとまずツッコミを入れておいて、答えを待つ。
俺の苛立ちを感じ取ったのか、破戒神もおとなしく返事をしてきた。
「わたしは昼間は出歩いてますからね。店番は夜行性なので、この時間でも開いてるんです。むしろこの時間しか開いてません」
「人雇ってるのか。ひょっとしてアスト……じゃなくてハスタールか?」
「まさか。旦那は引退して趣味の世界に没頭してるので、邪魔はしませんよ」
まあ、確かにハスタール神は趣味の魔道具製造を満喫してるみたいだが、それはそれで寂しい話だ。
しかし、違うとなると別の人を雇っているということになるのだが……この神に付き合えるとなると、かなりの大物と言わざるを得ない。
「その店番はどこにいるんだ?」
「今ですか? 一応食事休憩ということにしてますよ。休憩を入れずに働かせるほど、わたしは鬼畜じゃありませんので」
「世界樹ごと吹っ飛ばすのも、充分鬼畜だと思うんだけどね?」
新たな声は俺の背後から聞こえてきた。
店内に入って数歩。その俺の背後には扉があったはずだ。
扉にはドアベルが掛けられていたから、開けばベルの音が聞こえたはず。その音もなく店内に侵入してきた存在に、俺は戦慄を隠せなかった。
「あ、おかえりなさい、バーさん」
「その呼び名、やめない?」
「めんどくさいので、ヤです」
俺は相手を刺激しないように、ゆっくりと一歩踏み出しつつ振り返る。
一歩踏み出したのは、少しでも相手から距離を取りたかったからだ。それくらい、背後に現れた存在に脅威を感じていた。
振り返った先にいたのは、十歳をいくつか過ぎたくらいの育ちの良さそうな少年だった。
脅威を感じさせるような点はかけらもない。だが対面しただけではわかる。こいつはバケモノだ。
「いつのまに――」
「ああ、気にしないで。僕も破戒神の知り合いって言えば、大体わかるでしょ?」
「普通の人じゃないってわけだ……?」
その質問には答えず、意味深な笑いを浮かべるばかりの少年。俺の問いに答えるつもりはないようだ。
だがここで破戒神に会えたのは、僥倖とも言える。彼女がこの街に根を張っているならば、例の
後の情報では、あれがクファルの仕業であることが判明していたが、あれも一応魔神の一種。しかもこの世界樹の迷宮に生息しているモンスターである。
もしクファルが何らかの方法でこの迷宮内からモンスターを引き抜いているのなら、それは妨害しておいた方がいいはずだ。
「そうだ、北部の森でニードルビートルが出現したんだが、心当たりはないか?」
「……北部の森で、ですか?」
「ああ。あれってこの迷宮の特産品だろ。おかしいと思ってな」
魔神とはこの世界の外から召喚された存在。
そしてこの世界樹の中に存在するモンスターの一部も、外の世界から世界樹によって召喚された存在だ。
つまりこの世界樹の中には、魔神と呼ばれる範疇に入るモンスターも、多数存在しているということになる。
「特産品ってイヤな言い方ですね。確かに角と皮は装備になりますけど……バーさん、どうです?」
「なんでそいつに聞くんだ?」
「彼はここで迷宮の番人も兼ねてるんですよ。ナイショですけどね」
口元に指をあてて、内緒という仕草をして見せる破戒神。見かけが美少女だけに、その仕草はかなり絵になる。
だが俺も、バーさんと呼ばれる少年も、それに惑わされるほど甘くはなかった。
「もちろん、仕事はしっかりしてるよ。僕が知る限り、迷宮からモンスターを持ち出そうとした輩はいない。それは保証するよ」
「だ、そうです」
「そうか……じゃあ、完全に別物の事件ってことか」
「そっちに関してはわたしも調べておきます。魔神絡みは、もう放置できませんので」
「わかった」
白いのは少しばかり頼りないが、こっちの少年の方は大丈夫だろう。
わかるものが見れば一目でわかる、強者の気配。六英雄以外にもこんな奴がうろついているなんて、世界は本当に広い。
こんなのが見張っているのなら、実力ある者なら、無理にモンスターを連れ出そうとはしないはずだ。
俺が懸念しているのは、魔神を使役するクファルが、世界樹から魔神を連れ出すという行為だ。彼がそれを見逃すとは思えない。
「連中、前はラウムで活動していたくせに、今度は北部でなにかしてやがる。はっきり言って活動範囲がべらぼうに広い。この街でも何かやるかもしれないから、一応気を付けておいてくれ」
「がってんしょーち、です」
「了解。君も無茶はしないようにね?」
軽い返事を返す破戒神とは違い、真剣な答えを返す少年。初対面なのに、本当に頼りになる。
「じゃ、夜も遅いから、俺はこれで」
「ってか、君も女の子なんだから、夜に出歩くんじゃないよ」
「ほっとけ」
余計な忠告を飛ばしてくるところを除いて、だが。
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