第418話 フォルネウスへの旅路

 コルティナが参加してから、俺たちの旅路はより順調なモノになった。

 元より俺とミシェルちゃんの警戒網が厳重だったのに、その上コルティナが待ち伏せされそうなポイントを前もって警告してくれるようになったからである。

 動物系のモンスターなどは待ち伏せは多用しないが、盗賊や知恵を持つモンスターにとって、これは厄介極まりない。

 待ち伏せしているところを予測され、その場所を使い魔で偵察されてしまっては、先手の取りようがない。

 そして俺たちを相手に先手が取れないということは、ミシェルちゃんの射撃を心行くまで味わってしまうということでもある。

 気が付けば、盗賊の脳天に矢が突き立っているという事態も、頻繁に発生していた。


「わかっていたことだけど、容赦ないね」

「えー、だってニコルちゃんが『やっちゃえ』っていったじゃない」

「いったけどもぉ」


 俺たちの進行方向には、そろったように眉間を射抜かれたゴブリンの遺体が四体、街道脇に転がっていた。

 すべてミシェルちゃんの仕業である。

 ちなみに『やっちゃえ』と言った五秒後にはこの有様になったところを見ると、彼女の腕はまた一段と上がったようだ。


「やー、私もここまで一方的だとは思わなかったわー。二匹くらいはクラウド君が止めると思ったんだけどねぇ」

「俺、最近仕事してないんスよ。おかげでますます立場が弱く……」

「美少女ばかりのパーティだから仕方ないよねぇ。で、誰が本命?」

「それいったら命が危ないので、勘弁してください」


 馬に乗ったまま盾と剣を構えていたクラウドが、情けなさそうに肩を落としていた。

 彼もこの二週間、騎乗訓練を繰り返しており、両足だけで馬を操る技術を習得しつつあった。


「クラウドはまだいいぜ。俺たちなんて、最近ついてってるだけになっちまってるからな」

「ほんとだぞ。これで報酬もらっていいのか、遠慮しちまうくらいだ」


 コルティナがゴブリンの伏兵を見抜いたため、最後尾から前にやってきていたマークが、そう愚痴る。

 最近は彼らも、まったくやることがなくなっていた。

 コルティナと俺、それにミシェルちゃんが有能過ぎる結果だ。

 ここにきて、俺は生前にガドルスが言っていた言葉を思い出していた。

 新人と組んだ時、俺が何でもかんでもこなして、新人が何もせずに帰ってきた時の会話だ。その時は『新人の教育にならない』と愚痴られていた。

 まさに今、俺は同じ状況にはまりつつある。


「そうだね。このままだと確かに安全なんだけど、マークたちのためにならないかも?」

「俺たちのため?」

「そう。わたしたちにべったりたよったままじゃない? これだとマークたちも気まずいし、経験にならないよ」

「それは、まあ……そうだな」


 こうして長くミシェルちゃんたちと接し、『育てる』という意識に芽生えてみると、なんでも俺がやってしまうというのは悪いことだと実感できるようになっていた。

 そこで少し考えて、配置の変更を考えてみる。


「そうだね……じゃあ、わたしとマークたち三人を前に出して、ミシェルちゃんたちは後ろに下がってみよう?」


 索敵だけは疎かにするわけにはいかない。だが彼らの経験のため、極力口出ししないようにしておくことにする。

 ミシェルちゃんの射程距離なら、車列の最後尾からでも前線を援護することができる。

 それに後ろの警戒も必要なので、彼女を後ろに置くことも、それなりに意味があった。


 荷馬車が最前列になってしまうことが心配点だが、それもまた経験である。

 むしろクラウドを除く俺たち四人という面々が最前列に並んでいることも、盗賊やゴブリンを誘引する一因になっていた可能性があった。

 揃いも揃って美女、美少女揃いパーティが最前線を歩いていたのだから、そりゃ目立つ。そして下世話な欲求を掻き立ててしまうのも、当然だろう。

 それを避ける意味でも、後ろに下がって隠れておくのも悪くない。


 そうやって配置変換して進むことしばし。その日の夕刻に差し掛かったあたりで、俺は待ち伏せる気配を察知した。

 使い魔を使って先行偵察したいところではあるが、俺に使い魔ファミリアの魔法は使えない。だが風上から漂ってくる独特の獣臭はコボルドかゴブリンの独特の物だ。

 注視すると、進行方向に不自然な揺れ方をしている草も見つかった。おそらくあの近辺に隠れているのだろう。

 これくらい街から離れていると、モンスターの襲撃も多くなる。だがマークたちは、いまだ気付いた素振りは見せない。


「……ふむ?」


 知らせてもいいのだが、ここで先手を取って行動してしまっていたのが、前世の俺だ。

 教育ということを考えるなら、ここで少し痛い目を見ておくのもいいかもしれない。

 車列はそのまま進み、このまま不意打ちを受けてしまうかというところになって、トニーが敵の伏兵にようやく気付いた。

 手遅れにならない前に気付いたという点では、腐っても第三階位というところか。


「とまれ、敵だ!」

「なに!」


 驚愕の声を漏らしながらも、剣を抜き構えて周囲を警戒するマークとジョン。

 トニーの警戒の声でこちらの警戒に気付き、草むらから飛び出してくるゴブリン。

 露骨に警戒してしまったのはやや減点だが、そこはまあ、さほど問題ではあるまい。

 彼らにとってゴブリンはすでに相手になるような敵ではない。

 不意打ちさえされなければ、余裕を持って倒せる程度の力はある。


 俺の予想通り、ゴブリンたちは瞬く間に駆逐され、事なきを得たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る