第400話 三年後の成長
ストラールの街に来て、三年が経った。
俺たちの実力も評価も順調に上昇し、今では第四階位、かつてのレオンと同じレベルにまで成長している。
もっともそのレオンは一足先に第五階位に登り詰め、実質この地方最強の冒険者の名を欲しいままにしている。
彼のところは新しい仲間を二人迎え入れており、順調な冒険者生活を送っていると言えよう。
そんな俺たちの前に、一つの問題が持ち上がっていた。
「フィニア、今週はいくつ?」
「七件です。ミシェルちゃんは?」
「わたし六件。ニコルちゃんはぁ?」
「……………………二十一件」
「さ、さすがですね」
この件数はこなした依頼の数ではない。そう……告白された回数である。なお、女も含む。
あれから三年。俺の身長はさらに伸び、百五十センチ程度にまで伸びている。
そしてスタイルもマリアに迫るとまでは行かないが、各所が豊満になり、どこに出しても問題がないくらい女性の身体になってしまっていた。
結果として、その体型と美貌で俺に一目惚れする者が続出。日に三件はそういう連中に絡まれる羽目になっている。
フィニアはあまり外見に変化はしていないが、それでもわずかに豊満さが増し、女性としての色気を見せ始めていた。
もっともフィニアはこの街に来た時から同じようなペースで告白されているため、あまり環境に変化はないかもしれない。
ミシェルちゃんに至っては、
いつ騙されたり、襲われたりしないか、俺も気を揉んでいる有様である。
「これはどうにかしないといけないね」
「そうだね、毎日呼び出されるのも億劫だし」
「私の生活リズムは、あまり変わりませんけど?」
ガドルスの宿『大盾の守護』で俺たちは憂鬱な溜息をついていた。
事が好意なだけに、乱暴な返しをするわけにもいかず、毎回断るのに四苦八苦している。
そんな俺たちと違って、気楽な表情で会話に参加するバカ野郎が一人。
「俺も聞いてくれよ。今週二人に告白されたんだぜ」
「死ね」
「辛辣ぅ!」
「そのまま結婚引退してもいいよ?」
「ヤだよ、まだ冒険したいし」
言うまでもなくクラウドである。
俺とミシェルちゃんが十五歳になり、同様にクラウドも十七歳へと成長していた。
彼は半魔人らしく色白な肌にすらりと伸びた体躯を持ち、そこにしっかりと筋肉のついた彫像のようなスタイルに成長している。
背も高く、百八十センチに届こうかという身長は、遠目にも目立つ。
冒険者としては決して高い方ではないのだが、その体格のバランスが素晴らしい。そこはまた、俺のジェラシーを掻き立てる。俺の前世はクラウドよりも背が低く、筋肉もついていなかったからだ。
「イケメン死ね。慈悲はない」
「なんでだよ! ミシェルも何とか言ってくれよ?」
「クラウド君のすけべぇ」
「ひっでぇ!」
クラウドに話を振られ、テーブルに突っ伏したままぷくっと頬を膨らませて不機嫌を示す彼女は、同性から見ても愛らしい。
無垢な表情とアンバランスな体躯が、さらに小悪魔的な魅力を発散させていた。
「でも、こうまで注目されてしまうと、さすがに身動きが取りにくいよね」
「どこに行くにしても、監視されている気分になってしまいますね」
「なんか視線が胸の辺りに集中してるしぃ」
「それは仕方ない」
歩くだけでも軽快に弾むそれは、男なら否応なく視線を誘導されてしまう凶悪な兵器だ。
こればかりは男の気持ちが理解できる。俺も中身は男だからな……まだ。
「街に馴染んだのはいいけど、こうも目立っちゃうのは問題だよね」
「そーだねー」
「もういっそラウムに戻りますか?」
「……むぅ」
ラウムを旅立ってから三年。そろそろマクスウェルの言っていた『ほとぼり』が冷めた頃合いと見ても問題はないはず。
問題は、向こうの状況がどうなっているかだ。
俺も月に一回はコルティナの元に顔を出しているため、状況はそれなりに理解している。
腐敗貴族たちの首魁であるリッテンバーグの首は獲ったが、奴が派閥のすべてというわけではない。
奴の後釜を狙うべく、権力欲に駆られた貴族たちが争い始めている状況でもあった。
マクスウェルはその騒動を収めるべく奔走していたが、あまり芳しい結果は出ていない。
「もう少し、かかるかなぁ?」
事はミシェルちゃんの身の安全にかかわる。いや、彼女だけではない。彼女の家族にまでその被害は及ぶ。
慎重に行動しなければ、今度は俺の救出が間に合わない可能性だってある。
そんな慎重論を唱える俺の答えに、ミシェルちゃんは落胆の声を上げた。
「だめかぁ……」
考えてみれば、俺は月に一回ラウムに顔を出しているが、ミシェルちゃんは手紙でのやり取りだけしか行っていなかった。
三年も会っていなければ、両親が恋しくなるのも当然のことだ。
「んー、でも詳しいことはマクスウェルに聞かないとわからないし……いっそこっちにご両親を呼び寄せれば?」
「それはぁ、できなくもないけどぉ……」
いつもと違い、歯切れの悪い彼女の声。
ミシェルちゃんの一家はすでに一度北部からラウムへと引っ越している。
何度も住処を変えるというのは、資金的な問題だけでなく精神的な負担になる。
ラウムに越して八年でまた他所に引っ越すことに、彼女は懸念を表明しているのである。
「さすがにわたしのせいで引っ越してって言うのはね」
「そっか。とにかく今度戻った時に様子を見てくるよ」
「うん、お願いね」
「ついでに孤児院の様子もお願い」
「クラウドの頼みは聞きたくないけど、孤児院は気になるから見てくる」
「素直じゃないなぁ」
「あぁん?」
余裕ぶったクラウドの態度が気に入らなかったので、俺は念入りに奴のこめかみを拳で抉っておいた。
この気安い態度が、俺と奴の関係を疑われる元になっているとわかっていても、やめられないのである。
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