第392話 次の探索場所

 とりあえず、俺たちの目的の薬草は見つかったので、マークたちも呼んで、できるだけかき集めてもらった。

 コルネ草は棘のある肉厚の葉を持つサボテンの様な植物で、中央に赤い小さな花を咲かせる。花が咲いていないと、そこいらにあるアロエのような植物と見分けがつかないのが、難点だ。

 明け方には花はしおれてしまうが、試験の内容はコルネ草を持ち帰ることなので、しおれたまま持ち帰っても問題はない。

 試験官はこの試験を担当するだけあって、識別の能力を持っているはずだ。


「まさか、これがコルネ草だったなんてね。アロエだと思ってたよ」

「うん、わたしもー」


 俺のボヤキにミシェルちゃんも同意を返す。

 とりあえずどの部分が必要なのかわからないので、根っこから掘り返して袋に包み、予備の皮袋に詰めて持ち帰ることにした。

 数は指定されていなかったが根っこから持ち帰るとなると結構な大きさになるため、結局一人一株か二株持つのが限界だった。それでも、試験的には充分だろう。


「そっちは簡単に見つかって羨ましいよ」

「そうはいっても、これはかなり幸運だったからだよ?」


 マークが早々に試験をクリアした俺たちに、羨望の視線を向けてくる。

 だが、この場で野営するという選択を取らねば、コルネ草は発見できなかった。つまり偶然の産物といっていい。

 おそらくギルドは、わざと欠落した情報をこちらに与え、発見できず戻ってきて再度調査させるという目論見を持っていたに違いない。

 俺たちが野営の準備を元々持ち合わせたこと、そしてペースを見誤って実際に野営することになった、いわばミスの結果が良い結末を呼び込んだとも言えた。


「偶然の幸運を呼び込むのも、実力の内って言うけどな。どうしても……」

「羨ましい?」

「ま、まあな」


 素直に嫉妬を認めるマーク。こういうところは意外と好感が持てる。クラウドならば『そんなことねぇし!』とか言って強がるところだ。

 しかし、今回のことは彼らにとっても幸運だったはずだ。


「でもよく考えてみて。わたしたちは、この草が夜にだけ咲くなんて聞いてなかったんだよ」

「ん、どういうことだ?」

「つまり、ギルドは意図的に重要な部分を削除した情報を寄越してきた。そして寄越した部分の情報には嘘がなかったってこと」

「うん? つまり俺たちも同じように重要な部分を隠されているってことか?」

「そういうこと。そっちはモリーア草だっけ? この湖の中に生えてるって聞いてきたんでしょ」

「ああ、そうだ」

「ふむ……?」


 ギルドの情報に嘘が無いとすると、湖の中に間違いなくモリーア草は存在しているはず。

 しかし、周囲を見て回ったが見当たらない。ならば隠された情報がその在処を示していることになる。

 情報に嘘が無く、隠された場所となると……


「湖畔にはないってことかな?」

「待てよ、ギルドの情報には嘘がないんだろ。だったら――」

「ギルドの図鑑には『湖の中』って書いてあったんでしょ。ひょっとしたら、もっと深い場所に生えているのかもしれない」

「でも草ってのは、光が無いと育たないだろ。深い場所なら光が届かないから、繁殖しないんじゃないか?」

「この湖の深さってどれくらい?」

「さぁ?」


 彼らも駆け出しの第一階位。ここまで足を伸ばしたことは無かったらしい。

 だが、この湖は大都市であるストラールを潤す水源でもある。普通はそんなに浅いとは思わない。が、万が一ということもある。


「ちょっと調べた方がいいかもね。幸い、フィニアは水中呼吸ブリージングの魔法が使えるから、明日潜ってみよう」

「おい、待てよ。俺たちは水着なんて持ってきてねぇよ」

「男ならパンツ一枚でも充分でしょ」

「無茶言うな!?」


 まあ、彼等も俺たちより年上とは言え、年頃の年代だ。幼さの残る俺やミシェルちゃんはともかく、フィニアの前で下着姿を晒すのは抵抗があるだろう。


「じゃあ、代わりにクラウドが――」

「絶対嫌だ!」

「わがままだなぁ」

「どっちがだよ!」


 クラウドとマークが声を揃えて抗議してくる。

 そういえば俺も、前世ではコルティナに魚を取ってこいと言われたことがあった。

 あの時もパンツ一枚を要求され、断固として断ったものである。


「しかたないな。確か荷物に水着があったから、わたしが潜るよ」

「それなら、私も一緒に行きます」


 なぜ俺たちが水着を持っているのか。それは湖畔への遠征と聞いて、フィニアが用意しないはずがなかったからである。

 もちろんミシェルちゃんも、抜け目なく用意してきていた。


「わたしも! わたしも!」

「ミシェルちゃん……水の中だと無能じゃない」

「ぐっふ」


 俺の辛辣な一言に、ミシェルちゃんはがっくりと地面に手を着き、崩れ落ちる。

 しかしこうでもいわないと、彼女は無理矢理でもついて来かねない。

 動きの自由が取り辛い水中では、彼女の安全は保障できないので、ここは我慢してもらうしかなかった。

 それに水中では彼女の能力は全くといっていいほど発揮できないが、湖岸からなら狙撃のしようもある。


「どのみち今日は調査できないから、明日の朝だよ。それに調査した後でも、遊ぶ時間くらいあるんじゃないかな?」


 朝一番で調査を開始すれば、昼までには水中を調べ終えることができるだろう。

 探すのは深い位置にモリーア草らしきものが生えていないかだけなので、それほど時間はかかるまい。

 見つからなかった時は、現状では情報が足りないので、街に戻る必要がある。

 結局見つかっても見つからなくても、明日の午前中で調査は一旦終了というわけだ。


「それにミシェルちゃんには、お仕事があるから」

「えっ、なになに?」

「クラウドとマークたちのノゾキを妨害すること」

「おっけー!」

「人聞きが悪いな!? そんなことしねーよ」

「少なくともクラウドはする」

「お、おう」

「そこで肯定するな」


 俺がクラウドの頭をジャンプしつつブッ叩いて、この話は終了となったのだった。

 この野郎、身長ばっかり伸びやがって……

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