第385話 順調な作業
三人組が屋根に登り、梁に降りて修理することになった。
俺とフィニアは資材を屋根まで運ぶ役割を担当する。まずフィニアが下で資材にロープを結び、俺が屋根の縁で
もちろん俺だけでは心許無いということで、冒険者の中から一人、トニーという男が補佐についてくれることになった。
これは引き上げるのが俺一人ではできないと見て、即座に手を貸すための措置だろう。そういう意味では、まじめに仕事に取り組んでいる連中である。
彼らも俺たちと同じく第一階位を示す赤の縁取りのカードを下げていた。
歳はクラウドより少し上っぽいので、男というよりまだ少年といった方がいい年代だ。
「よし。フィニア、持ち上げるよ!」
「はい、こっちは大丈夫です!」
木材を一本縛り終えたフィニアが、下から返事を返していた。
俺はすぐさま
同時にフィニアも下で木材に
二つの魔法の効果が発揮され、まるで小枝のような軽さで木材を引き上げることができた。
「ほう、なかなかやるじゃないか」
「まー、わたしたちは非力だからね。それなりに創意工夫はしないと」
「うちは魔法を使える人材がいないから、うらやましいよ」
「わたしたちも、魔法が使えるのはわたしとフィニアだけだよ」
「俺たちの後衛は射手だからな。対応力が低いのは否めないんだよ」
「そう考えると、わたしたちは恵まれてるね」
「それを術者本人が言うんじゃなければ同意したんだがな」
互いに軽く冗談を飛ばしながら木材を運んでいく。
フィニアのかけた
小柄な俺が木材を担ぎ上げ、トニーに至っては二本の木材を担ぐ姿を見て、他の冒険者たちは目を丸くしていた。
「持ってきたよ。後二分くらいは軽いから」
「お、おう……」
「こいつら、意外と使えるぜ。仲間に欲しいくらいだ」
「そ、そうか?」
俺とトニーから木材を受け取り、作業に移る冒険者たち。
細い梁の上に降りて、木材を打ち付け補強していった。その間に俺も次の木材を受け取りに戻る。
こうして補修する二人と運搬する俺とトニー、下で木材を縛るフィニアという分担で、順調に作業は進んでいった。
昼を越える頃には梁の補修も済み、一旦昼食を取ることになった。
昼食はラングさんが仕出し弁当を用意してくれていた。さすがに大店の注文先とあって、その味は文句のつけようもなく、五人揃って舌鼓を打っていた。
その間に冒険者の名前も聞きだしておく。他の二人はマーク、ジョンという実にすぐ忘れそうな名前だった。
そして昼からの作業。
今度は梁の上に乗って、屋根の内と外から屋根板を補修する作業に入った。
問題は屋根の内側から補修する側は、外と違って降りる梯子などが存在しない。
そこで操糸の能力を持つ俺と、風魔法を使えるフィニアが内側の補修を行うことになった。
作業が終われば、俺は糸を使って、フィニアは風魔法を使って下に降りることができる。
「おい、白いの。そこ、下から押さえてくれ」
「マーク、その白いのって呼び方は、すごく、すっごく不本意だからやめてほしい」
「なんかトラウマがあるのか? まあいい、そこのちっこいの、そこ押さえてくれ」
「それも不本意だけどまだマシかな。わかった」
俺が下から板を押さえ、屋根に空いた穴を塞いでいく。
ガンガンと、少し乱暴な勢いで槌を振り下ろすマーク。だがその勢いが強すぎたのか、べキリと音を立てて、足場の板がへし折れた。
前のめりになって穴の中に落ちていく。
「う、うわ!?」
屋根の高さは十メートルはある。
以前落ちた従業員は下に干し肉の山があったおかげで怪我はなかったようだが、今はすでに撤去されている。
床は石張りの硬いもので、ここから落ちればただでは済まない。
瞬時にそれを理解したのか、マークは必死の形相で梁に手を伸ばそうとしていた。
しかし、紙一重でその手は届かなかった。
下から資材を押さえていた俺と、離れた場所で作業していたフィニアも間に合わない。
梁に手を伸ばしたことでこちらを向いたマークの顔が絶望に染まっていく。
このまま落ちれば頭を床に打ち付けて即死は免れないだろう。
俺はとっさに片手を板から離し、ピアノ線を飛ばす。
この糸はそれほど長いものでは無い、せいぜい十メートルあるかどうかというところだ。だが、そばを落ちていった男に絡めるくらいには充分な長さだ。
男はピアノ線に絡めとられ、今度は振り子のように横に振られていく。
そしてそれを支える俺は、それに耐えられる筋力はなかった。
「ぐ、ぬぅ……!」
バランスを崩し、同じく梁の上から落下しそうになる。
とっさに梁に両足を使ってしがみつき、かろうじて落下に耐える。ちなみに両手はピアノ線を支えるために使っている。
ブランと逆さまにぶら下がって、窮地を凌いだ。
「ニコル様、今行きます!」
「マーク、無事か!?」
屋根の上と離れた場所から安否を尋ねる声が飛ぶ。
何とか落下は阻止したので、あとは助けが来るまで耐えればいい。
しかし俺は忘れていた。
俺はさっきまで、下から板を支えるために押さえていた。そして押さえていた手は今、ピアノ線を持っている。
ベキッと音を立てて、打ち付けていた板が外れ、落ちてくる。もちろんその真下には、押さえていた俺がいる。
両足は身体を支えるために梁に巻き付けており、両手はピアノ線を支えるために使っていた。
そして俺の身体そのものは、マークを支えるためにまったく身動き取れない状態だった。
つまり……避けようもなく、板の直撃を受けてしまったのだ。
ゴッと鈍い音を立てて俺の頭に直撃する。
目の前に星が飛んで、視界が真っ白になる。視界の焦点が合わなくなり、視野が狭くなっていく。
ここで気を失えば、十メートル下の床に叩きつけられてしまう。それを知っていても、防ぐことができなかった。
俺は抵抗虚しく意識を失い、梁からゆっくりと落下を始めたのだった。
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