第332話 模擬戦の反省会
「さて、反省会です」
硬く敷き詰められた土の上を転がりまわったせいで、泥だらけのボサボサになった頭のまま、訓練場の隅に移動して反省会を始めた。
レティーナも同じような有様で、どうにも誰かに乱暴された感が酷い。いや、実際ミシェルちゃんに乱暴されたわけではあるが。
そのミシェルちゃんは、戦闘終了を無視して射掛け続けた罰で正座させられている。
「まずクラウドだけど、攻撃の意志を持つのは悪くないんだけど、どうも中途半端になっちゃったね」
「そうなのか?」
「今までが防御一辺倒過ぎたから、その傾向は悪くないんだけど、バランスは考えないと。盾を引かれて反射的に引き戻そうとしたなら、その盾を使用しないと後手に回っちゃうよ」
あの時クラウドは俺に盾を引っ張られ、反射的に引き戻そうとしていた。その後剣を振り上げて攻撃しようとしたわけだから、引き戻そうとした動きは正直言って無駄になっている。
そのまま防御に徹するか、引いた盾を構えて俺を突き放すなどした方がよかった。
逆に、攻撃を優先するなら盾を捨ててもよかったかもしれない。相手は俺一人で、後方にはミシェルちゃんとレティーナと言う、強力なサポートがついていたのだから。
「そっか。どうもまだその辺が上手く組み合わさらない感じで……」
「そこは経験だから、今後も試行錯誤するといいよ。次にレティーナ」
「あの短剣、無視して躱さない方がよかったのかしら?」
「頭に飛んできた短剣を避けない方が危ないよ。むしろそのあと呪文で迎撃しようとしたのが間違いだったね」
魔術師は接近戦が苦手と言うのは、古来から変わらぬ不変の事実である。
俺に接近を許した段階で、レティーナは反撃よりも離脱を考えるべきだった。
彼女の勝気な性格故に、反射的に反撃してしまったようだが、それは悪手と言わざるを得ない。今後を考えると、この行動はしっかりと諫めておく必要がある。
「最後にミシェルちゃんは、レティーナの死体に遠慮せずわたしを撃つべきだったね」
「うん。でもどうしても、レティーナちゃんごと撃つのが気になっちゃって」
「そこがミシェルちゃんのいいところでもあるんだけどねぇ」
本質的に優しい彼女は、仲間の死体ごと撃つという行為にも忌避感を持つ。
その優しさは長所でもあるが、こと戦闘に関しては重荷になってしまう。
「じゃあ、最後はニコルちゃんだね。ニコルちゃんは自分の体力を過信しすぎないこと!」
「うぐっ!?」
「レティーナちゃんを担いで突撃なんて、ニコルちゃんには無茶だったよ?」
「レティーナくらいならいけると思ったんだけどな」
「わたくしが軽いのは認めますけど、そこまで言われると、少しイラっと来ますわね」
いまだに子供サイズのレティーナならば、俺の今の体力でも行けると思っていたのだ。
だが俺の身体は日々成長している。身長は百四十センチを超え、胸も大きくなって、腰にも丸みが出てきていた。
逆に腰や手足は細くなり、女性としてのメリハリが出つつある。
これが問題になっているのだ。
身長は伸びているのに、足のサイズが大きくならない。
胸が膨らんでいるのに、足元が小さいままでは、重心が高くなってしまい、バランスが悪くなっている。
これは妊婦などが体型の変化についていけず、転びやすくなる現象と似ているかもしれなかった。
「最近胸が重いから、身体のバランスが悪くなってるんだよね」
「あ、それわかるー」
「イヤミですの? イヤミですわね!?」
「レティーナはその心配がなくていいね」
「ムキィ!」
「そう言うの、俺のいないところでやってくれねぇかなぁ。最近当たりが厳しくって」
「散々わたしとレティーナのパンツ見れたんだから、当然じゃない?」
「不可抗力を主張したい!」
クラウドはギルドで格上相手の鍛錬を積み続けていた。本来なら身体を壊してもおかしくないような激しいものが多いのだが、守りに適性を持つ彼はそれを苦もなくこなしている。
そして冒険者たちも、厳しい鍛錬についてくるクラウドを、なんだかんだ言って可愛がっているように見える。
やはり頑張る若者は目を掛けたいのだろう。
「まぁ、反省会はここまでにしよっか。それより今週末に、コルティナと温泉に行こうと思っているんだけど?」
「残念ですわね。今週末は屋敷の掃除を手伝わないといけませんので、さすがに行けませんわ」
ヨーウィ侯爵家はゴブリン襲来の際に限界まで避難民を受け入れてくれていた。
平民たちもそれに感謝し最低限の清掃をしてから去っていったが、やはり特殊な品の多い屋敷では掃除が行き届いていないところもある。
本来ならば使用人がその後始末をするところだが、さすがにその手が足りなくなっているらしい。
そのため、レティーナ個人には冒険者としての依頼と言うことで、侯爵が屋敷内の清掃を依頼したという話だった。
「あっ、わたしもその日は納品を手伝わないといけないから……」
「そっかぁ」
ミシェルちゃんの家は猟師だ。仕留めた獲物を解体して肉にしたり、毛皮や牙を工房に卸したりしている。
森の中にあるラウムでは獲物に困ることもなく、毎度その量は結構なモノがあった。月に一度はこういう理由で駆り出されているのも、むべなるかなである。
「クラウドは……のぞくからいいや」
「そんなこと、し、しないし!」
合宿でマクスウェルに
まあ、あの爺さんの口の上手さに乗せられてのことは俺も理解しているが、今回はフィーナやコルティナも一緒である。貴様に、彼女たちの珠の肌を見せてなどやるものかという感情もあった。
「クラウドくんのえっちぃ」
「ミシェルまで言うのか」
「まぁ、冗談はここまでにして。念のため聞くけど、一緒に来る?」
「いやでも、コルティナ様と一緒なんだろ?」
「そだよ」
「……行きたいけどやめておく」
「さっき何を想像したか、言え」
おそらくコルティナのアレやコレやを想像したであろうクラウドを、俺は厳重に折檻しておいたのだった。
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