第302話 ポンコツ軍師の醜態
ベッドの上に転がったコルティナは毛布を肩口までかぶり、逆に足は剥き出しにしてゴロゴロしていた。足は剥き出しになっており、毛布の下は全裸なのではないかと思われる。
そして心の声は駄々洩れになっていて、聞いているこっちが恥ずかしくなって来るセリフが俺の耳を容赦なく攻め立てた。
「あーでもでも、あの時はちょっとやりすぎちゃったかしら。はしたないとか思われたり……いやいや、あの朴念仁はあそこまで攻めないと気付いてくれないし」
「あの、コルティナ?」
「ああっ、じゃあじゃあ、あっちの方をあーしてあげた方が――」
「えっと、コル、ティナ……?」
「でもレイドって意外とがっしりしてたわね。ライエルほどじゃないけど、私としてはあれくらいの方が均整取れててよかったかも」
「……………………」
ついに俺は、聞いていられなくなって耳を押さえてしまった。
横を見るとフィニアも顔を真っ赤にして俯いている。
おそらくコルティナが俺をフィニアの元に送ったのは、こういう理由もあったのだろう。
この醜態を限界まで我慢していたからこそ、見られたくないと思って俺をフィニアの元に追い払ったのだ。
名残惜しそうにしていたのは、それでも一緒にいたいという女心のなせる矛盾か。
「フィニア、コルティナはもうダメ。私たちだけで夕食を食べよう」
「そ、そうですね。コルティナ様には冷めても大丈夫なモノを用意しておきましょう」
俺は人生で初めて、仲間を置いて逃亡した。さすがに、これを聞き続けられる図太い神経は、俺にはない。
フィニアもこれ以上の痴態を俺に見せるのは教育に悪いと思ったのか、撤退に賛成してくれている。
なんとなく居心地の悪い気分のまま、俺は着替えを済まし食堂へ向かう。
そこでフィニアはサラダと冷製シチューの夕食を作っていた。
メインは鶏肉をヨーグルトに漬けてから焼いた物を用意するらしい。普通に焼いた物では冷めると脂が固まってしまい、味が落ちてしまうからだろう。
下味に使用したスパイスの香ばしい匂いが食堂に満ちて、食欲を刺激する。
「それ、初めて見るかも」
「そうですね。匂いがきついので、あまり作ってませんでしたし」
「お肉は焼くかコートレットにするのが多かった気がする」
俺はフィニアの調理に口を挟みながら、その手元を何気なく見ていた。
彼女の手はいつものようにリズムよく動き……いや、いつも以上に弾むような躍動感を出していた。
「フィニア」
「なんですか、ニコル様?」
「今日、いいことあった?」
「ふぇっ!?」
これは俺のエスコートの点数を聞いてみたいと、ふと気になったのだ。
俺の質問にビクリと背筋を伸ばし、硬直する。
「あぶない、手元」
「あ、も、申し訳ありません。でもニコル様も悪いんですよ? 驚かすようなことを聞くから」
「いつもより手元が弾んでいるような気がしたから」
コルティナの方のサポートは、あの様子だと成功と見ていいだろう。
しかしフィニアの方はどうだろうか? 今回の機を逃すと、次は短くとも一か月先まで彼女を放置しないといけない。
異性をエスコートするというのは俺も初めての経験だったので、出来を本人から直接聞きたかったのである。
「そうですね。今日はとってもいいことがありました」
「どんな?」
「それは……言ってもいいのかな?」
「言えないことなの?」
これは意地悪な質問だったかもしれない。
俺の転生という問題は、俺個人に留まらず六英雄全てに関わってくる。
俺という部外者に伝えることは、マクスウェルの判断を仰いだ方がいいという考えに至った分、コルティナよりは正気を保っている。
「レイド、さまのこと?」
「どどど、ど、どうしてそれを!?」
「どうしてもなにも、さっきコルティナがダダ漏らしにしてたし」
正気かと思ったが、やはりやや抜けているようだ。まあ、慌てるフィニアも可愛いのでよし。
冷製のクリームシチューを冷やす作業に移り、その間に漬け込んでいた肉を焼き始める。
その手元はさっきと違い、ちょっと緊張していた。これは俺の質問に対して警戒してしまったからだろうか?
これは少し緊張を解してやった方がいいかもしれない。
「よかったね」
「え?」
「あこがれていた人に会えたんでしょ。だから」
自分で自分のことを憧れの人などというのは、正直言ってメチャクチャ面映ゆい。
しかし今の俺はニコルであり、レイドではない。ここで聞いておかないと逆に不審に思われるかもしれない。
「ええ、本当に。なによりもあの方が無事で……いえ、無事じゃなかったんですけど、また会えて本当に感激しています」
「……そっか」
俺が再び姿を見せたことで、ここまで喜んでくれる人たちがいる。
それだけで俺は、転生した意義を見出した気がした。
その分、正体がバレたときのことを考えると、背筋が寒くなるのではあるが。
自分のカップを取り出し、シチューに使用したミルクの残りを注ぎ込み、口に運ぶ。
これくらいのつまみ食いなら、フィニアも多めに見てくれている。むしろ俺は食事量が少な過ぎるらしく、推奨してくれていた。
「と・こ・ろ・で!」
「ん?」
「ニコル様には気になる殿方とかいらっしゃらないのですか?」
「ブフォッ!?」
口にした直後に妙な質問をされ、俺は思わず吹き出してしまう。
俺が男を? 冗談じゃない。今日の一件で確認できた。俺はやっぱり女の子が相手の方がいい。
「い、今のところは……」
「そうですか? クラウドくんとか」
「絶対ないから。ついでにエリオットもないから」
「ま、まさかマクスウェル様とか」
「フィニア、正気に戻れ?」
いくら何でも、あの爺さんは問題外だ。
「やはりライエル様の壁は厚いですか。あれほどの騎士様がそばにいると、理想も高くなりますよね」
「む、じゃあレイドさまで」
「そ、それはいけません! コルティナ様はともかく、ニコル様まで敵に回ると、私なんて勝ち目なんてなくなるじゃないですか!」
「ほほぅ、まだあきらめてはいないんだ?」
「うぅ……せめて側室とか、それくらいは……」
別にこの国は一夫一婦制に限定されているわけではないので、複数人と結婚するのは別に問題ではない。
ラウムがその傾向が強いというだけだ。現に北部三か国連合王国では、一夫多妻制が認められている。
元々戦乱が多く、とどめに邪竜に襲われてしまい、男が激減してしまったことがこの制度に輪をかけていた。
そこでふと思いつく。つまり、俺も北部に拠点を置けば、コルティナとフィニアを同時に妻に迎えることができるのだろうか?
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