第299話 もう一人との再会
その日、俺は二度に渡る人生で初めて、大事な人という存在を得ることになった。
朝から何をと思われるかもしれないが、元の姿に戻れた感動と同時に湧き上がる激情を押さえることができなかったのだ。
しかし、俺がフォローしないといけない人間は、コルティナだけではない。もう一人、いる。それはコルティナも理解していた。
切り出したのは彼女の方が先だった。
「そう言えばフィニアちゃんにはもう会ったの?」
「いや……」
ベッドの中で寝そべりながら、コルティナがもう一人の存在に言及する。
俺の死を直接目にし、その責任を感じている彼女も、コルティナと同じくフォローしておかねばならない。
コルティナはなぜか
俺はそんな姿勢の彼女の頭を優しく撫でて、先ほどまでの余韻に浸っていた。
「確かに彼女にも会っておかねばならないのだが、その……お前とこうなった後で、ってのもなぁ」
「会わないとダメよ? あの子も大分マシになったとは言え、妙に責任感じたままなんだから。ニコルちゃんに過剰な忠誠心を発揮しているのも、その辺が原因なのよ」
「そういうものかな?」
「それに彼女相手なら、私も多少は浮気を許してあげる」
「えー、浮気とかそういうの、無しにしねぇ?」
「ちょっと、随分な言い草ね」
俺の軽口についに顔を上げて、枕を投げつけてくるコルティナ。どうにも甘ったるい空気が無駄に漂っている。
おかげで俺の緊張もかなり解れていた。
だからと言って制限時間を忘れるわけにはいかない。俺に残された時間はあと数時間しかない。彼女の言うことも、一理ある。
「まあ、お前の許可が出たんだから遠慮する必要はないか」
「言っておくけど、フィニアちゃんだけだからね!」
「了解、了解」
「気付いてないようだけど、あんたを狙ってる娘、結構多いんだから」
「それも最近になって気付いた」
名残惜しい雰囲気を出してはいるが、事がフィニアということもあり、彼女も我慢しているのだろう。
それだけに彼女も、フィニアのことを大事に思っているのだろう。
俺はそんな彼女の想いを感じながらも装備を整えていく。
コートを羽織り、手甲を手に取ったところで、コルティナが何かに気付いたかのように驚きの声を上げる。
「あれ、その手甲……そんなデザインだったっけ?」
「うぇっ!?」
コルティナと関係を持つにあたり、俺は装備を外していた。
魔力の供給を立たれたため、幻覚魔法が解けて本来のデザインがむき出しになってしまっていた。
とっさにその手甲を背中に隠す。
「き、きっと光の加減だな。うん」
「そうかしら……それで、今度こっちに来るのは二か月後なのね?」
「ああ、頑張れば一か月後でも行けるんだけど、ちょっとあれはキツくてな」
「あんたが無事で、元気にしているんだったらいいわよ。でも手紙くらいは欲しいかしら?」
「俺って筆不精なんだが……なるべく善処しよう」
「そう言って期待を裏切ったことがないのがあんただもんね。
「いや、これは本当に難しいから」
文字というのも俺にとっては厄介な問題だ。
コルティナは俺が魔術学院に入ってから、ずっと担任を続けている。
つまり、俺の文字について知り尽くしていると言っていい。
前世とは手の大きさも違うため、筆跡は大きく違ってきているので今までバレなかったが、手紙となると今度は逆にレイドの時の筆跡を要求されるわけだ。
ここでボロが出ないとも限らない。
「ま、まあ今は時間もないし、フィニアのところに行ってくるよ」
「ちゃんと優しくしてあげるのよ、ヘタクソ」
「なにおぅ!?」
そう言って送り出してくれたのは、俺に無駄な緊張をしないようにという心配りだったのかもしれない。
俺はマクスウェルの屋敷に向かい、フィニアが出てくるのを待っていた。
マクスウェルは俺がコルティナの家に向かっていること知っているため、彼女はこの屋敷で足止めを食っているはずだ。
俺が屋敷のそばまでやってきたところで、マクスウェルから
この魔法は遠距離にいる特定の存在に言葉を飛ばし、会話できるようにする魔法だ。
冒険者ギルドの通信魔法もこの魔法の発展形らしい。
『ようやく来たか。上手くいったのかの?』
「マクスウェルか、やけに反応が早いな」
『
「フィニアは?」
『片付けを終えて今は一休みしておるよ』
「それは重畳。少し挨拶をしていきたいと思っているんだが?」
『足止めするまでがワシの役目じゃ。後はお主の好きにせぃ』
マクスウェルがそう言ったということは、もうしばらくするとフィニアは出てくるのだろう。
屋敷で会うより、外で会った方が邪魔ものがいない分、話しやすいかもしれない。
そう判断して外で待つことしばし、フィニアが玄関の扉を開け、ペコペコ頭を下げながら出てきた。
おそらくマクスウェルから報酬を受け取って恐縮しているんだろう。
報酬の入った布袋を肩掛けカバンにしまい込み、珍しく浮き浮きした表情で足取り軽く出てきたフィニア。
そのカバンは見るからに重く膨らんでいた。華奢な彼女にしてみれば、結構な重さだろう。
俺は気配を消してフィニアの後ろまで忍び寄り、驚かすように声をかける。
「重そうな荷物ですね、お嬢さん。良ろしければ、私がお持ちしましょうか?」
「へぁ!?」
間の抜けた声を漏らし、慌てて振り返る。
そして俺の姿を認め、大きく目を見開いた。この辺の反応はコルティナと同じだ。
気障ったらしく、恭しい一礼を見せる。これは魔術学院で覚えたものだ。
貴族が多く通う学院だけに、礼儀作法の授業もカリキュラムに組み込まれている。
「え、まさか……レイド、様?」
「お久しぶり。大きくなったな、見違えたぞ」
硬直するフィニアの頭を優しく撫でてやる。
およそ二十年振りに、俺はレイドの姿で彼女の前に立ったのだった。
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