第280話 ニコル式尋問術

 マクスウェルが召喚主の魔術師を押さえてくれたおかげで、俺は魔神を楽に倒すことができた。

 やはり協力者がいると、格段に戦闘が楽になる。


 かくいうマクスウェルの方も、戦況を有利に進めていた。

 魔神という切り札を失った魔術師は、こちらの状況を知って大いに焦り始める。

 それは荒い攻撃を生み出し、大きな隙を作りだす。


 熟練のマクスウェルが、その隙を見逃すはずもなかった。

 状況を逆転させるべく、今まで以上に大量の魔力を注ぎ、巨大な爆炎槍ファイアジャベリンを生み出し投擲する男。

 それはマクスウェルの生み出した土壁アースウォールに阻まれ、大爆発を巻き起こす。

 それまでを遥かに上回る破壊の嵐。しかしその爆発は、マクスウェルを見失わせる結果になった。

 土でできた壁を破壊し、爆炎と土煙が収まった後、その場にマクスウェルの姿はなかった。


「消えた? くははは! あの爆発を免れるはずもなかったか。さしもの六英雄とて、我が魔法の敵ではないということか!」

「いやぁ、さすがにそこまで腕は落ちてはおらんぞ?」


 戦闘を外から見ていた俺は気付いていた。

 爆炎槍ファイアジャベリンにより、壁が破壊されると同時に、あの爺さんは姿隠しコンシールを使用していた。

 そして爆炎が収まった後で悠々と移動し、男の背後を取ったのだろう。

 

 男の背後で姿を現し、魔法陣を手早く構築するマクスウェル。

 声を掛けられ、慌てて振り返る男。


 そこにはすでに魔法陣を構築し終えたマクスウェルの姿があった。

 反射的に攻撃魔法を構築しようとする男だが、先に魔法陣を組み終えていたマクスウェルに敵うべくもない。


「貴様!? 朱の八――」

麻痺撃スタンボルト

「ぎゃぴぃ!?」

「……遅いのう。それに魔法の選択も甘い」


 魔法に未熟な俺からしても、男の失敗は明白だった。

 まず最初に、あまりにも大きすぎる魔法を使ったこと。

 マクスウェルのように、周囲ごと圧殺するほどの威力ならともかく、中途半端な威力で標的を見失ったことが致命的だった。

 第二に、背後を取られ、振り返って焦って攻撃魔法を使おうとしたこと。

 すぐ後ろに敵が現れたのなら、近接戦を挑むだけでも良かった。マクスウェルは近接戦闘の心得はあまりない。魔法で撃ち合うよりもそっちの方が勝つ可能性は高かったはず。

 そして第三の敗因。反射的に爆炎槍ファイアジャベリンの魔法を使おうとしたこと。

 倒そうとせず、牽制で突き放すなりして、マクスウェルの妨害に走れば、まだ成功の可能性はあっただろう。

 もっとも魔法陣を完成させていたマクスウェルに、詠唱の短い低レベル呪文でも追いつけるかどうかは疑問ではあるが。


 そう言った失敗が重なった結果、男はまともにマクスウェルの麻痺撃スタンボルトを食らう羽目になってしまった。

 この魔法は対象を麻痺させ、行動不能に陥らせる魔法だ。

 もっとも、魔法に抵抗レジストされてしまうと何の効果も発揮できないので、一か八かの感は強い。


 全身を痺れさせ、気を失ってもぴくぴくと痙攣する男を、俺はミスリル糸で縛り上げる。

 この糸ならば、生半可な魔法や縄抜けでも切れないはずだ。


「マクスウェル、ご苦労さん」


 俺は男を縛り上げながら、マクスウェルをねぎらう。

 マクスウェルも、俺に同様の言葉を返してきた。


「なんの。お主の方こそ、よくぞ単独であの魔神を倒せたものじゃな」

「俺の魔法との相性は悪かったが、ギフトとの相性はいいみたいだったからな」


 複数の糸を操れる俺と、複数の触手を操る魔神。

 双方が同じ舞台で戦える以上、優劣を決めるのは戦闘経験、身体能力、手札の数といったところか。

 身体能力以外の全て面で俺が上回っていたのだから、勝つのは当然の結果と言えた。


「さて……ではこやつから、話を聞きださねばならぬかな?」

「口の軽い奴だっただけに、重要なことは知らなさそうだけど」


 ペラペラ喋っていたわりに、生贄の供給元など知らない様子だった。

 だが供給元と渡りをつけた存在はいるはず。そこから北部の生贄問題に迫ることはできるはず。


「まずは起こすとするかの……覚醒アウェイク


 この魔法は気絶した状態から対象を文字通り覚醒させる魔法だ。

 だが受けているダメージが大きすぎた場合、目を覚ましても再び気絶してしまうので意味がなくなる。

 今回は麻痺撃スタンボルトで気を失わせただけなので、そういう問題は発生しない。


「ん、むぅ……」


 糸で拘束された男が、もぞもぞと身をよじり、目を覚ました。

 それを見てマクスウェルは、俺から離れていく。


「レイド、後は任せるぞ。ワシは子供たちを解毒して回るでな」

「おう、まかせとけ」


 そうはいったものの、俺は拷問……もとい尋問はあまり得意ではない。

 生前は面倒な場合は力任せに解決したことが多かった。つまり、殺して済ます。


 しかし現在の俺は違う。

 魔法という新たな力を得た俺は、肉体的ダメージをさほど与えることなく苦痛を与える手法を身に着けている。

 まず、身動きできない男のズボンを引きずり降ろし、下半身を露出させる。


「な、なにをするつもりなのだ!? 私は幼女に性的な興奮は覚えんのだが」

「誰がそっち方面の拷問にかけると言ったか。これは下準備だ、洗いざらい話すなら苦痛なく官憲に突き出す程度で許してやる」

「待て、それではどっちみち死ぬではないか!」

「極刑に値することをしていた自覚はあるんだな。それは良かった」


 話をしながらも作業は止まらない。

 男の醜いアレやコレやを露出させ、そこに糸を巻き付ける。

 別に、切り落としてしまっても構わないのだろう……が、それでは苦痛は一度しか与えられない。

 そこで俺は新たに習得した魔法を発動させる。


保温ウォーム、失敗版」

「ぎゃあああああぁぁぁあああああっ!?」


 過剰に加熱されたミスリル糸が、男の表皮だけを焼いていく。

 糸が金属なだけに熱の伝導率はかなり高いようだ。

 こうして俺は尋問を開始した。


 なお、男が陥落するまで、さほどの時間は必要としなかった。

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