第262話 新しい魔法?

 何度もを繰り返した結果、温度の調整具合も大体掴めてきた。

 そこでようやく本命であるミシェルちゃんの水着に、保温ウォームを掛けてみる。

 入念に調整された魔力を注ぎ、慎重に発動された魔法は、彼女の体にまとわりつき、正確にその効果を発揮した。


「おお、あったかいよ! ニコルちゃん、この魔法最高!」

「どうやら成功みたいだね。よかった」

「でもどうせかけるなら、ビキニではなくワンピース水着にした方がよかったんじゃありませんか?」

「そだね。その恰好じゃお腹が冷えそう」


 フィニアがそう主張したが、その意見もわかる。

 水着が保温ウォームで温められるのだから、他の部位にはその効果が及ばない。

 一際露出が多いミシェルちゃんは、その恩恵は少なそうだった。特に引き締まったお腹周りが寒そうである。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。わたしは元気が取り柄だから、これだけでも充分あったかいよ」

「そのタフさがうらやましい」


 他の三人よりも水に入っていないのに、焚火のそばから離れられない俺とは大違いである。

 とは言え、少ない犠牲でこの魔法を習得できたのだから、これは僥倖ぎょうこうという物だろう。俺はそう判断し、犠牲の方に視線を向けた。


 そこには、股間を押さえたまま、ビクンビクンと痙攣し、尺取虫のような格好で浜辺に倒れ伏したクラウドの姿があった。

 保温ウォームの魔法でトランクスを何度も焼かれた結果である。


「それじゃ、そろそろ寒くなってきたから、コテージに戻ろっか。そこで股間を押さえて卑猥な感じに痙攣してる少年。さっさと立て?」

「誰のせいだよ! っていうか、女の子がそんな言葉を口走っちゃいけません!」

「む、クラウドのくせに偉そう」

「クラウドのくせにってなんだよ? これは孤児院のシスターがよく口にしてる言葉だぞ」

「なら仕方ないか。じゃあ言い直す。クラウド、さっさと立て。別のところは起たせなくていいよ」

「だからぁ!?」


 俺も元男だから、その辺の生態に関しての知識はある。

 だが男子の生態に関しての知識が薄いミシェルちゃんとレティーナは、何を言っているのか理解できてない様子だった。揃って首を傾げている様子が可愛らしい。君たちはずっとそのままでいてほしい。

 マクスウェルは……なんだか内股になって俺から距離を取っている。安心しろ、お前に掛ける気はない。


「しかし、この魔法って実は危険な魔法なんじゃない?」


 ここまでの実験で、俺はそういう感想を抱いた。

 水着を加熱してしまうことができるのなら、ズボンだって加熱することが可能なはずだ。戦闘中とかに相手にこの魔法を掛ければ、大きな隙を作ることもダメージを与えることも可能になるはず?

 俺の言葉に、マクスウェルも大きく首を捻っていた。


「本来ならば、そこまで温度が上がる魔法ではないはずなんじゃがの。それに、武器の金属部分を加熱して敵にダメージを与える魔法は既に存在するのじゃよ」

「なんだ、じゃあ新しい魔法というわけではないのか」

「いや、その魔法は金属にしか効果がないので、ある意味新しい魔法じゃぞ? 他にも、相手の服に着火ティンダーを掛けるなんて手段もある。しかし燃焼させずに温度だけを上げるというのは、新発見かもしれんの」

「今まで、そういう失敗した連中はいなかったのか……いや、いなかったの?」

「おそらく、お主の内部にある魔力量の多さが影響しておるんではないかと睨んではいたのじゃが……」


 今は他にも仲間がいるので、いつものような言葉使いはできない。マクスウェルとこのメンツで話をするのは滅多にないので、どうにも調子が乗ってこない。

 だが先ほどの魔法の感触に関しては、即座に話し合っておきたい。時間が経過すると忘れてしまう感覚という物もあるからだ。


「魔力の消費に関してはどんな具合じゃ?」

「ん? 基礎レベルの消費でやってるからそれほどでも……でも、なんか強化エンチャントの二倍以上減った感?」

「朱の一程度の消費でそれか。中級じゃから他の魔力設定が高いとはいえ、やはりどこかでロスが出ておるようじゃの。それが過剰な熱量になって顕現した感じか」

「まあ、今回の被害はクラウドの邪悪な股間程度だから、無いも同然で済んだわけだし、よしとしよう」

「よくねーよ!」


 倒れたままこちらに苦情を飛ばしてくるクラウド。まだ立ち上がらないということは、意外とダメージが大きいのだろうか?

 俺は負傷の様子を見るべく、クラウドのもとを訪れる。


「意外と怪我が大きい? ちょっと見せて」

「見せれるか!」

「今さら粗末なモノ見ても、恥ずかしがったりしないよ?」

「そこは恥じらいを持て」


 クラウドはまだ十三歳。俺から見ればまだまだ子供といっていい。生前はいい大人だったし、生まれ変わってからはライエルに風呂に入れてもらったこともある。赤ん坊の頃だが。

 なので、象さんレベルのクラウドなんてどうということもないのだが、奴は一丁前に恥ずかしがっていた。


「見ないと治癒光キュアライトできない」

「しなくていい! マクスウェル様にしてもらうから」

「お前ごときがマクスウェルの手を煩わせると? どれだけ尊大なこと言ってるかわかってる?」

「うっ!? それは……じゃあ我慢する!」

「おとなしく仲間に治してもらえばいいのに」

「その辺にしとけ。セクハラ幼女になっておるぞ」


 さすがに見かねてマクスウェルが回復ヒールを飛ばす。俺の治癒光キュアライトでは気持ち程度しか治らないので、圧倒的にマクスウェルの方が効果が高い。

 そもそもそれほど深い傷でもなかったのか、クラウドはあっという間に元の様子を取り戻し、立ち上がった。

 まったく、無駄に心配をかける男である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る