第229話 言い訳
出発前にクラウドのせいで足止めを食らってしまったが、トラブル自体は回避できた。
しかしそこで俺は微妙な違和感を感じていた。
そう、クラウドが巻き込まれているというのに、おせっかい焼きのレティーナや、友情に篤いミシェルちゃんの反応が無かったことだ。
あの二人がこの状況を見て、仲間が絡まれているのに口出ししないはずがない。
「あれ、そう言えばミシェルちゃんたちは?」
「ほら、あそこ」
俺の言葉に、クラウドがギルドの外を指さす。
そこにはギルドの向かいで屋台を出している串焼き屋の前に陣取り、両手に焼き鳥を持つミシェルちゃんの姿があった。
そして隣には同じような格好のレティーナの姿も。
「あいつら……」
「まぁ、ミシェルは食欲魔神だから仕方ないよな。でもレティーナまで一緒なのは珍しいかも」
「レティーナはいいとこのお嬢様だから、温かい食事は珍しいんじゃない?」
「そういうもんか?」
日頃の様子を見るととてもそうは思えないが、仮にも侯爵令嬢。食中毒や毒殺を恐れ、警戒する必要がある。
出来上がった料理が彼女の口に入るまで、味見や毒見など何段階も段階を踏み、彼女の元に辿り着く頃にはすっかり冷めてしまっているらしい。
だからこそ俺たちとの冒険は、彼女にとって温かい食事をとる、数少ない機会になっていた。
「ほら、二人とも、いくよー!」
俺は外の二人に声をかけ、クラウドの手を取って先を急がせた。
いろいろあったせいで、すでに日が傾き始めている。暗くなる前に戻らねばならない身としては、一刻も早く街を出ておきたい。
「あ、ごめーん」
「美味しそうだったから、つい釣られてしまいましたわ」
「ははは、そりゃ間接的に俺の腕を褒めてくれてんだな?」
「悪くないお味でしてよ。また寄らせていただきますわ」
「おう、また来いや!」
ツンとしたレティーナと、勢いある屋台の親父が妙な感じに意気投合しているのが、少し愉快だ。
だが時間がもう残り少ない。今日はミシェルちゃんにも操糸のギフトをバラした事だし、その能力を使った連携なども試しておきたい。
そこに薬草集めとなると時間的にギリギリだ。ある意味、これもいい訓練になるだろう。
「今日は限られた時間の中でいかに効率的に動くかの訓練になりそうだね。後、新しい能力を使った連携も試すから」
「新しい能力ですの?」
「ミシェルちゃんとクラウドには話しておいたけど、わたしの能力の一つでね……糸を使った戦闘を試してみるから」
「糸……また妙な能力ですわね? いえ、それはひょっとして……レイド様と同じ!?」
「まー、そうかな?」
「なんて羨ましい!」
「そんなこと言われても……」
操糸というのは、表向きは実に地味な能力だ。最初にその能力の名を聞いたら、使い道に頭を悩ませるだろう。
しかし六英雄マニアのレティーナは、すぐにレイドの能力である事に考えを到らせた。
六英雄の中でも最も地味な俺の能力に、すぐ思い到ったのはレティーナならではだろう。
「知っての通り、わたしは干渉系魔法のギフトも持ってる。つまり、ギフトを二つ持ってるわけ。これが知れ渡ったらどうなるか、わかるね?」
「それは……大事になりますわね。複数のギフト持ちは、数にして一万人に一人くらいの割合ですもの」
「それだけじゃなく、生まれも影響して来るし」
「それぞれ二つのギフトを持つ六英雄の娘まで、複数のギフト持ち。これはビッグニュースになりますわ」
「そう。それが知れ渡ったら……おおごとになる。エリオットとかも」
「陛下には新しく想い人が出来たそうですけど。でもそうですわね、あれほどの権力を持つ方なら正妃の他に側室くらいは持ちますもの。そうなればニコルさんも……」
「だから今まで黙ってたの。だから口外無用だよ? もちろんパパたちにも」
「そうだったのですわね……でもライエル様にもナイショですの?」
レティーナも俺の口実に丸め込まれ、一旦は納得してくれたようだが、ライエルにも秘密という点で疑問を残したようだ。
俺にとって、最も秘密にしなければならない相手は、むしろライエルを始めとした昔の仲間たちだ。
しかし、レティーナにとってみれば、俺の都合なんてわからない。むしろ両親でもあるライエルに話さない事を不自然に思ってしまうのは、実に真っ当な感想である。
ここをどうにかごまかさないと、いずれはライエルたちに伝わってしまうだろう。
「んー、じゃあマクスウェルには話してもいい」
「ライエル様やマリア様にはダメですの? 後コルティナ先生も」
「えっと、それは……パパたちはほら、レイド様のことでいろいろと、ね? 娘が同じ能力を持っているなんて知ったら、微妙な感じになっちゃうじゃない」
「そう言うモノですの?」
「わたしを見る目に昔の仲間が映るなんて、ヤだよ」
「それは……確かに」
映るも何も、実際に昔の仲間なんだがな。
だが『娘として見てほしい』アピールは、ことのほかレティーナの琴線に響いたようだ。
貴族でありながら、愛情たっぷりで育った彼女は、その性質も実にまっすぐである。
娘として見られない自分を想像して、フルリと身体を震わせたところなど、可愛らしいモノだ。
「でも現地にいなかったマクスウェルだけは、六英雄の中でも例外的にあの事件を冷静に見れてる。だから話すのはマクスウェルだけ。パパたちに伝えるかどうかは彼が判断してくれるだろうし」
「うん、そうね……マクスウェル様の判断を無視して、わたしたちが先走って話しちゃうのは問題かもしれませんもの」
「でしょ? だからマクスウェルに先に話して、それから彼の判断という事で」
「了解ですわ」
なんだか、またマクスウェルに責任をおっ被せてしまった気がしないでもない。
しかし、これも俺の秘密を暴いた爺さんが悪いのだ。
小さな報復に、少しばかり黒い笑みを浮かべ、俺たちは街を出たのだった。
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