第226話 隠蔽工作
マクスウェルによって、デンをマレバの山中に匿うのは一瞬で済む。
マクスウェルがゲートを開き、そこにデンを押し込んで、俺の隠れ家に住まうように指示しておいた。
ついでに近付かない方が良いアストの洞窟近辺も注意しておく。
本来ならば、アストに挨拶に行った方が良いのだろうが、奴は見かけによらず横着な面もあり、近くにモンスターが住み着くくらいなら別段気にしない性格である。
いちいち煩いと叱られる可能性もあったので、とりあえず放置しておくことにした。
一応マクスウェルが話を通しているので、礼は失していないだろう。
「それじゃ、デン。この近辺の獣なら狩ってもいいし、山を降りなければ問題も起きないだろうから、安心して住むといい。だけど俺の隠れ家は汚く使うなよ?」
「わがっだ、おで、きれいに、する」
「ならばよし。それからさっき言っておいた崖には、めちゃくちゃコワイ鍛冶師がいるから近付かないこと。だが問題が起きたら、そいつの元を訪ねるといい。合図の仕方は覚えてるな?」
「黒い石、ひろっで、おなじ色の石、たたく。いっかい、にかい、よんかい、いっかい」
「よし。じゃあ俺たちは帰るから。今後もときおり様子は見に来るつもりだけど、できるだけ大人しく過ごすんだぞ」
「わがっだ。にごる、いい子」
「濁る言うな、ニコルだ」
「に、にご……?」
「ああ、もういい」
自分の倍以上の身長があるオーガと会話するのは、首が痛くなってくる。
特に近くに寄られると、ほぼ真上を見上げて話さないといけないので、かなりつらい。
だが人懐っこいデンと話すのは、悪い気分ではなかった。なんとなくミシェルちゃんに通ずる純朴さを感じるのだ。
「それじゃ、な。名残は惜しいが、俺たちは他にも用事があるから」
「うん。せわ、なった。また来る」
「おう、また来る」
手を振ってからマクスウェルとともにラウムへと帰還した。
デンに告げたように、俺たちは他にも用事があるのだ。
ラウムの岩のそばまで戻り、珍しくマクスウェルが大きなため息を吐いた。
がっくり肩を落とすその姿は、滅多に見られるものではない。
「どうした? さすがの爺さんも転移魔法の連続で疲れたか?」
「いや、それは全然。しかし、この剥き出しの地脈を封じねばならんと思うと、もったいなくてのぅ」
「ああ、そっちか」
しかし、前にマクスウェルが指摘した通り、この場所は放置しておくには危険な場所だ。
政治的にもラウムが倦厭される原因にもなりかねないし、今回のように犯罪者の悪用にも利用されかねない。
だからこそ封印ではなく、完全に埋没させる選択を、俺たちは取ることにしていた。
「この場所を怪しまれるのも問題になるから、できるだけ静かにやってくれよ?」
「掘り返されると面倒じゃからな」
「爆発系の魔法で一気にとか、考えるんじゃねぇぞ?」
「ワシをなんだと思っておるのじゃ?」
マクスウェルは冒険者時代も、その溢れんばかりの魔力にモノを言わせて、過剰に破壊を振り撒く傾向があった。もともと権力ある地位についていたので、どうしても見栄えというものを重視してしまうらしい。
静かに岩の下を埋めないといけないのに、爆裂系の魔法で一気にとか考えていてもおかしくはなかった。
だから俺が注意したのに、さも心外そうな表情で返されると、俺が言いがかりをつけたように見えるではないか。
「爺さんは派手好きだから、念のためだよ」
「この後のこともあるし、疲れが残るような真似はしたくないわい」
クレインはコームかリリスの街に逃げ込んでいる。
そこはラウムの管轄外のため、その街を経由して、さらに別の街に逃げ込む可能性もあった。
そうなったら、後を追うためにはマクスウェルの転移魔法がまた必要になってくる。
さらには、マテウスのような腕利きが護衛に就いているのだ。いつどこで激戦が発生するかわからない。
「俺が元の身体に戻れたら、後れを取る様な相手じゃなかったんだが……」
「無茶を言うな。お主はその歳で中級魔法に手をかけておるのじゃぞ? 他人から見れば、立派な天才じゃわぃ」
現在、俺の
無論全力で引くには破戒神から譲り受けたバングルの力を借りなければならないが、
後遺症が発生しないことを考えると、俺の
「さて、埋めるとするかな? まずは岩を支えて、それから地下空間の壁を崩してそこに岩を沈めるようにしよう」
「聞いてるだけで大仕事なんだが、ホントに大丈夫なのか?」
「任せておけぃ」
まず小山のような大岩を支えると聞いただけでも不可能ごとに聞こえてくる。
だが俺の心配をよそに、マクスウェルは次々と魔法を放っていった。
まず
そしてゆっくりと
こうしてラウム近郊で発見されたパワースポットは、その存在を市民に知られる事なく、一夜にして葬り去られてしまったのだった。
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