第217話 暴露
クラウドの許可を取った事で、俺は学院に向かうべく、
朝早く家を出たとはいえ、教会経由となると、結構な遠回りになる。
急いで登校せねば、遅刻してしまう。もっとも俺の身体の弱さはすでに周知されているので、多少遅れても納得されてしまうのだが。
「そう言えば、ニコルちゃんも凄かったよね?」
「え?」
だがその足を、ミシェルちゃんの言葉が止める。
いつもと同じ、ニコニコとした笑顔。そこに裏は感じられない。しかし、その口から洩れた言葉に、俺は戦慄した。
「だってほら、大人五人相手に全然退かなかったし、襲ってきた相手にワイヤーでビシーって」
「俺は気絶してたから見てないんだけど……」
「そっかぁ」
その言葉に俺はだらだらと冷や汗を流す。
彼女たちの前では糸を直接使った戦い方は見せていない。例外的にクラウドには見せているが、彼は俺がミシェルちゃんたちに合わせてレベルを落としていると思っている。
そもそも、糸を身体に纏わせて筋力を補助するなどと言う思考自体に到れない。だからこっそり使用しても、今までバレていなかった。
彼女たちの前では、せいぜい移動手段に糸を使う程度にしか見せていないのだったが、今回に関しては言い逃れができない。
攻撃に糸を使い、剣の代わりに糸で攻撃を受け、戦闘で自在に使いこなして見せたのだ。
「まるでレイド様みたいだったね?」
「う、うん……その……」
ミシェルちゃんに追及する気配はない。しかし二人とも俺の大事な仲間であり、魔術学院を卒業後はパーティとして旅に出ようとも考えている。
そんな仲間に俺の能力を黙っているという事は、不利益しかないのではないか、と考えてしまう。
少し前の段階ではミシェルちゃんも幼かったので、うっかり誰かに話してしまう可能性もあったが、今の彼女なら大丈夫なのではないか?
俺がレイドの転生である事まで話す必要はない。操糸のギフトを持つ事だけを知らせてみるというのは、どうだろう?
「えっとね……話してなかったんだけど……」
「うん?」
「実はわたし、もう一つギフト持ってるの」
「えっ、じゃあ全部で二つも!?」
ミシェルちゃんも俺は干渉系魔法のギフトを持っていることは知っている。
術の習得速度は早い方なのだが、解放力と制御力に問題があるため、その腕前の進歩はギフト持ちとしてはあまり良くはない。
しかし、現在はトリシア女医の薬でその問題は無くなり、順調に干渉系魔法を習得しつつあった。俺もすでに中級位の魔法に手を掛けつつあり、他の生徒には微妙な天才という認識をされている。
微妙と判断されているのは、干渉系という系統のせいだ。使用する者が多く、あまり大きな効果を発揮しない干渉系魔法は、あまり大きな評価をされない。
それはともかくとして、他にもギフトがあるとなると話は変わる。
「ほら、ミシェルちゃんの射撃のギフトの時に言ったでしょ? わたしも二つギフトを持っていると知られると、面倒が起きると思って黙ってたの」
「でもあの時って、ニコルちゃん三歳だったでしょ。その時からそんな事考えてたんだ」
「う、うん。それに糸を操る能力って、地味だったから……」
「そんなことないよ。だってあの時も糸で敵を一人やっつけちゃったじゃない!」
「そ、そうかな?」
ミシェルちゃんはいつものように無邪気に笑っている。元々彼女は物事を深く考える性格ではない。
今回のことも思いついた事を話しているだけのはず。
だから彼女にある程度納得してもらい、他言無用を了承してもらえば、一途な彼女のことだから他者に漏れる事はあるまい。
「でもほら、二つギフトを持っているってだけでいろいろ面倒が起きるかもしれないから、誰にも言っちゃダメだよ?」
「そっか……そだね、わかった!」
「ニコル、二つもギフト持っていたのかよ。さすが六英雄の娘」
「え、へへ……」
正確には三つなのだが、これは内緒だ。さすがに三つのギフト持ちはこの世界でも数人しか確認されていない。
俺が三つ目を持っていると知られれば、それこそライエルたちに勝るとも劣らない騒ぎになってしまう。
「そっか、じゃあニコルがときおり糸を飛ばしてピョンピョン飛んでたのって、ギフトがあったからかぁ」
「もちろん毎日の修行は欠かせないからね? あの動きは修行の賜物なんだから」
「そっか……そう言えばニコルもすっごい頑張ってるもんな。俺も負けられねぇや」
「そうそう。ギフト持ちが一般人に敗北した事例なんて、いくらでもあるんだから。慢心しちゃダメ」
「うっ、それは今回の俺の行動のことかな?」
「もちろん」
今回の事件、全ての発端は二人の慢心からだ。一歩間違えれば二人とも死んでいた。そこはきちんと
もちろん、事件の直後にマリアからも叱られているので、肝に銘じているのだろうが、子供と言うのは成長が早いと同時に忘れやすくもある。
こうして事ある毎に注意し続け、頭に教訓を刻み込まねばならない。
「ミシェルちゃんも」
「うっ、ヤブヘビだぁ」
「ちゃんとわかってる?」
俺は腰に手を当て、精一杯眼を鋭くして怒ってみせた。無論、殺意は込めていないので、その威圧感は大したものではない。
だが友情を重んじるミシェルちゃんにとって、友から叱られるというのは大きな意味を持つはず。
案の定、彼女は大きくうなだれ、承諾の意を示した。
「はぁい、今度から気を付けますぅ」
「ならばよし。でも今後もしつこく言うから覚悟しててね?」
「えー!?」
「何度も言わないと、いざという時に忘れちゃうんだよ。本当だよ?」
「そうなの?」
「うん」
これは俺が生前、散々マリアやコルティナから言われていたことだ。
結局、独断専行が過ぎるという悪癖は死ぬまで治らなかった。
その悪癖は、俺だけでなくクラウドにも垣間見える。俺は結局コルティナを悲しませる結末を迎えてしまったが、彼には俺と同じ轍を踏んでほしくない。
だからこそ、しつこいくらい俺は口にすると決めたのだった。
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