第130話 大人の姿
マリアもコルティナもフィニアも、美女、美少女という点では非の打ちどころのない存在だった。
あの白い神だって、幼いながらも美しさという面ではそれを上回るほどの物があった。
だが、今俺の目の前に立つ美女は――それらをあっさりと超越していると言っていい。
色違いの瞳や青銀の髪など、元の俺の特徴を残しつつ、完璧に整った容貌は見違えるほど落ち着いた、大人の雰囲気を漂わせている。
それでいて小柄な体躯は少女の面影を残しつつ、妖艶な魅力を発散していた。
心配していた服も、マクスウェルのリクエストに合わせて作り替えていて、露出が少なく、それでいて色っぽさを残していた。
その服の出来栄えも、素晴らしい。
露出の多いチューブトップの上着に、胸の下で留めるノースリーブのジャケット。
剥き出しになった細いウェストが、ことさら女性としての華奢なラインを強調している。
下もスカートやパンツではなく、水着に近い形状の衣服。
腰回りのラインを強調しつつ、周囲を飾り布で飾る事で微妙にそれを隠していた。
細い足元は武骨な
腕の
「これは……」
ベースはあくまで今の俺の姿。それをマクスウェルの注文に従って成長させた結果が――これだ。
言葉を無くし立ち尽くす俺に、背後からマクスウェルが剥き出しの肩に手を置く。
無論幻影なので擦り抜けて、実体の俺の肩まで下がるわけだが。
「良かったの、レイド。将来は凄まじい美女になること請け合いじゃ」
「嬉しくねぇ! っていうか、悪目立ちしすぎる!?」
マクスウェルの指示に従い、今の俺をベースに外見をいじり続けた結果が、この有様である。
十代後半のこの姿ならば、確かに子供の俺と繋げて考える者もいないだろう。
「わしがあと100歳若ければ、押し倒して嫁にしたのじゃがのぅ」
「やめてくれ、マジで……」
何が悲しくて、かつての仲間に押し倒されねばならないのか。うっかりそのシーンを想像してしまい、俺は背筋に蟲が這うような悪寒を覚えた。
ブルブルと勝手に体が震え、思わず自分の身体を抱きしめてしまう。
「その仕草はなかなかそそるのぅ。すっかり女が板についてきておるじゃないか」
「マジでやめろ、このセクハラジジィ」
本気で嫌がる俺を見て、マクスウェルは
このまま俺をからかい続けても、ラチがあかないと判断したのだろう。
「それで、その外見ならどうじゃな?」
「まあ、確かにこの外見なら、見かけの美しさに気を取られて、俺と結びつかんだろうが……」
「自分で『美しい』と評価するか?」
「いや、お前も認めたし!」
身長的にはせいぜい三、四割程度大きくなったくらいだろう。
一メートルを少し超える程度だった俺の身長が、一メートル半程度まで伸びているのだから、ずいぶん印象も変わって見える。
寸胴と言っていい子供体型も、かなりメリハリの利いた体形になっているので、これも印象操作に一役買っている。
「将来、こうなれればいいんだがな」
「それはそれで面倒が降り掛かりそうじゃのぅ」
「面倒ごとは、もう勘弁してほしい……」
そう呟いて俺は姿見の前で槍を構える。
槍の位置の都合でやたら低く構えているようにみえるが、それはそれで特徴的な印象を与えるだろう。
変装としては充分な出来と言えた。
「ああ、そうじゃ。しばし待っておれ」
「ん、どうしたんだ?」
マクスウェルが言うが早いか呪文を唱え、姿を消す。
そして一瞬後には元の位置に戻ってきていた。その手には、見慣れた手甲が存在している。
「それは……」
「お主の
生前愛用していた、ミスリル製の鋼糸を複数仕込んだガントレット。その長さは軽く百メートル以上にも及ぶ。
俺の能力を最大限に活かすように、調整に調整を重ねた、自慢の一品だ。
「やっぱりお前が保存してくれていたのか」
「ただし手入れはしていないからな。こんな特殊な武器の手入れなぞ、ワシにはできん」
「取っておいてくれただけでも感謝の極みさ」
さすがに売られる事はないと思うが、遺品として死体と一緒くたに埋められていた可能性もあった。
それを取っておいてくれたのだから、文句の言いようがない。
肘の辺りまで覆う手甲を両手に嵌める。二の腕の部分の長さが合わず、肘の先まで飛び出してしまっているのはご愛敬だ。
腕の長さが違うので、この程度の問題は目をつぶらねばなるまい。
纏う幻影にも、手甲のデザインを反映させてみた。
腕の装飾が見慣れた手甲で覆われ、しっくりとした懐かしい外見が腕に収まる。
「待て待て、その手甲を晒したら、お主だと宣伝するような物じゃろうが」
「あ、そうか……ならこれはこのままで」
マクスウェルの指摘通り、この手甲は俺達ならば一目で俺の物とわかる逸品である。
それを堂々と晒せば、レイドとバレバレだ。この美少女姿に転生していると知られるのは、さすがに気恥ずかしい。
「ふむ、問題なさそうかの。後はとりあえずその眼を片方隠せば、今のお主と繋げて考えられる者はおらんじゃろうな」
「眼か……また右目を隠しておくかな」
今の俺をベースに作った幻影なので、目の色も俺の特徴を残していた。
俺の右目はマリア譲りの真紅の瞳をしている。これはこの地方にしては珍しい色合いなので、こちらを隠せば銀髪の美女という事で通るだろう。
いや、幻影なのだから髪で隠さず、そのまま色を変えてしまえばいいか。
両目を左目と同じ、よくある碧眼に変化させ、釣り合いを取る。
「そろそろ元に戻れ。その剥き出しの足はこの老骨でさえ堪えるわい」
「うるさいよ!」
太ももが付け根から膝元まで露出している服装のため、少々どころではなく恥ずかしい。
こういう衣装を指示したのは、他でもないマクスウェルだ。エルフの伝統的民族衣装だとか?
だがこのジジイの言動を見ていると、それすらも怪しいものである。
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