第107話 鑑定の好機
癒されたのだか、痛めつけられたのだか、よくわからない入浴を終えて、俺達は自室に戻っていた。
なぜか無駄にぐったりした俺を除いて、みんなツヤツヤしているのが羨ましい。
夕食は部屋に運んでもらうよう頼んであるので、時間まで俺達はそれぞれ好きなように暇をつぶして過ごしていた。
俺は先に草で編んだ床の上に寝具を敷いて、その上に寝そべっていた。
夜営の寝袋とは違い、床の敷物にほのかに温かみがあるのが悪くない。草の香りが実にグッドだ。
うつぶせに寝そべっていると、ミシェルちゃんとレティーナが俺の背に圧し掛かってきた。
「ニコルちゃん、まだお疲れー?」
「マッサージします? わたし、ちょっと目覚めてしまいましたわ」
「だんことして、ことわる」
俺は背中に幼女二人を載せながら、荷物の中からあるアイテムを取り出して眺めていた。
これはマチスちゃんが拉致されていた人攫いのアジトから持ち出した物だ。
幸いこの部屋には識別能力を持つ者がいないので、これを引っ張り出して見られても怪しまれる事は無いだろう。
俺もアイテムを識別する能力を持たないので、このアイテムに込められた効果がわからない。マジックアイテムである事だけはわかる。
それを知るには、相応の能力を持った者に依頼する必要がある。
「こんな事なら、さっきの白いのに鑑定してもらえばよかったな」
あれも一応神様なら、そういう能力くらい持っていたかもしれない。
だが逃げ足だけは一級品の白いのは、それを話題に出す暇もない程の速度で逃げた。おかげで持て余しているといっていい。
しかし、今日の俺はツイている。この町に来る途中で商人と知己を得たのだ。これを利用しない手はない。
「確か、ビル・ウィースって言ったか。探し出して鑑定をしてもらうのも有りだよな」
アイテムを鑑定するのは、識別系のギフトを持っているか、そう言った品に
他にも識別魔法を使うという手もある。マクスウェルにでも頼めば使ってもらえるだろうが、さすがに目の前にこんなものを突き出しては怪しまれる。
今、レイドの生まれ変わりの存在を疑っている連中に、出所不明のマジックアイテムを提示するなど、自殺行為でしかない。
そこで俺が白羽の矢を立てたのが、昼に出会ったあの商人だ。
商人ならば、ギフトかスキルのどちらかを持っている可能性は高い。
できるなら、この旅行中にもう一度顔を合わせて、鑑定を頼みたいところだ。
「そのためには……コイツ等をどうにかしないとなぁ」
「んー?」
「なにかいいまして?」
フィニアのマッサージに味をしめた幼女二人は、ぐったりしたままの俺の背に乗っかって、ぐにぐに背中を押して来ていた。
レティーナの力はそれほど強くないので問題ないのだが、ミシェルちゃんがすごく痛い。
「ミシェルちゃん、そこちがう。痛い」
「え、そう? ここだと思ったのになぁ」
「素人は下手に手を出しちゃダメだよ。ちゃんと監視してもらわないと」
「ニコルちゃんも素人じゃない?」
「わたしはフィニアに長年マッサージされているので、知識があるの」
「そーなんだ?」
寝そべった俺の上にミシェルちゃんとレティーナという幼女が乗っかっている。
言わば、幼女の小山のような状態にフィニアとコルティナが微笑まし気な視線を向けてくる。
だが、こちらを注視されれば、さすがに俺の手に持っている物にも注目されるわけで。
「あれ、ニコルちゃん、なんかいい物持ってるわね?」
「ん。家を出る時にこっそりくすねてきた」
俺が住んでいた屋敷はライエルとマリアの家でもある。
かつての冒険で手に入れたマジックアイテムが、結構無造作に置いてあったので、そういう事にしておいても問題はないだろう。ライエルとマリアの奴も、屋敷に何があるのか正確に覚えていない状態だったくらいだし。
コルティナからマリアの方へ、具体的な話が流れない限りは、俺が怪しまれる事もないはず。
「子供の手に届く所に短剣なんて……今度マリアに注意しなきゃ」
「あ、だめ! それ言われると、わたしが叱られちゃう」
と思ったら、速攻でコルティナは告げ口すると宣言しやがった。
まぁ、考えてみれば当然かもしれない。
「これは護身用にこっそり持ち出したやつだから」
「でもニコルちゃんはカタナを持ってるでしょ? 結構いい品」
「あれは出発の直前にパパから贈られたものだから。それまではこれといった武器は持ってなかった。旅に出るならナイフくらいは必要だし」
「あー、そういうことね。擦れ違っちゃったか」
俺が自衛のために剣を得る。その後でライエルが武器を贈る。そんなすれ違いが発生したと、コルティナは理解してくれたようだ。
無論事実とは違うが、そんな風に把握してくれた方が俺には都合がいい。
「確かに旅に出るならナイフの一つも必要だものね。でも黙って持ち出すのはいけないわよ」
「うん、それは知ってるけど」
「まぁ、カタナまで扱える子に、短剣一つで目くじら立てる必要はないと思うけど……」
「お願い見逃して。なんでもするから」
「今なんでもって――いや、そうじゃなく。どこでそんな言葉使いを覚えてくるのかしら?」
あえて場を茶化すように言葉を選んだ俺に、呆れたように頭を押さえるコルティナ。
だがお説教の空気を逸らされたのは察したようで、それ以上の追及は無かった。
「ハァ、まあいいわ。ナイショにしておいてあげる。でも一つ貸しだからね?」
「ン」
いたずらっぽくウィンクを送ってくるコルティナに、俺は親指を立てて了承の意を返したのだった。
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