第45話 伝説へ
自身の破壊の猛威を自ら受け止め、邪竜は崩落した岩に押し倒されていた。
それは邪竜の急所の一つ、心臓部が最も地上に近付いた瞬間でもある。
「ライエル、レイド! 今!」
「応!」
すかさず飛ぶコルティナの指示。
間髪置かず、突撃を敢行するライエル。
その姿はまさに、絵物語の英雄そのものだ。
だがそれに見惚れている余裕は無い。俺もすかさず糸を飛ばす。
飛ばす先はライエル――いや、奴の持つ聖剣に。
ライエルの動きを受けて、邪竜は大きく息を吸い込んだ。
岩が邪魔で、手足も尻尾も使えないと判断したからだ。ブレスで迎撃する。その判断は実に正しいだろう。
だが――
「マクスウェル、風! マリアも!」
「承知!」
続いて飛んだ指示にマクスウェルが応える。
強力な風をガドルスに向けて放ち、ライエルを追う彼が加速する。ドワーフであるガドルスは足が遅い。それを補うための措置だ。
間一髪でガドルスがライエルを追い抜き、盾を掲げて防御の体勢を取った。
そこへ吹きかけられる灼熱の吐息。
後ろにいる俺達もマリアの障壁によって守られていた。
マクスウェルの風が封じられてしまうが、このブレスさえ守れれば問題はない。
現にマクスウェルは次の魔法の詠唱に入っている。
ブレスとは吐息だ。
つまり息を吐くという行動による付加効果に過ぎない。
そして生物は、息を吐き続ける事は、決してできない。
時間にして三十秒程度か。ついに邪竜のブレスは止まった。
その間隙を縫って再度突撃するライエル。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおああああああああ!!」
絶叫と共に、構えた剣を身体ごと突き立てる。
鋭利な切っ先が鋼鉄よりも硬い鱗を絶ち割り、肉に食い込む。
しかし、それでも浅い。
奴の剣も刃渡りは短い方ではないのだが、巨体を支える邪竜の筋肉を貫き切るほどではない。
骨を削り、刃は止まる。致命傷には程遠い。
だがそこへ、コルティナの最後の指示が飛ばされる。
「マクスウェル!」
「これで仕舞いじゃ――
普段ではありえないほどの高位の魔力を籠め、マクスウェルの雷撃魔法が解き放たれる。
本来指向性を持たせ敵にぶつける雷撃の魔法だが、この魔法は威力だけに全てを注力し、周辺に破壊を撒き散らす魔法だ。
この魔法に触れるだけで人の身体は弾け飛んでしまう。
しかしこの魔法でも、絶大な防御力を持つ邪竜の鱗は貫けないだろう――本来ならば。
だが今は、奴の身体にはライエルの聖剣が突き刺さっている。
そしてその聖剣には俺の糸が絡みついていた。
とっさに糸を放す俺と、剣を捨てて身を伏せるライエル。
マクスウェルの雷撃魔法は周囲に拡散し、壁際に張り巡らされた俺の糸に流れ込む。
そして糸を辿り、ライエルの剣へと殺到していく。
鱗を絶ち割り、心臓の真上に突き刺さった聖剣へ。
世界最強の幻獣とは言え、生物である事には変わりない。
その内臓は電気信号によって動かされる。
そこへ超高圧の雷の嵐が殺到すればどうなるか?
「……例え邪竜でも――耐えられはしない」
小さくつぶやくコルティナ。
そのつぶやき通り、生物である以上、体内に直接電気を流されて無事で済むはずがない。
全身を硬直させ、岩塊の下で痙攣する邪竜。
やがてボンと低い炸裂音を発し、その身体が一回り膨れ上がる。恐らく体内の可燃物に引火したのだろう。
あれだけ高温のブレスを吐くのだから、それなりの『燃料』を抱え込んでいたはずだ。そこへ雷を流し込まれれば、爆発もする。
目と口から火炎放射のように炎を吐き出し、やがて邪竜はその動きを止めたのだった。
「勝った、のか?」
邪竜のそばで身を伏せていたライエルが起き上がり、そう呟いた。
誰もが自分達が成した事が信じられないでいた。
国すら滅ぼす邪竜を、たった六人で討ち滅ぼしたのだ。
「勝ったの?」
作戦を立てたコルティナすら、その事実をいまだ信じられずにいる。
だが、目の前で邪竜が倒れている。
内臓を焼き尽くされ、翼を切り取られ、岩に押し倒されたまま――息絶えていた。
「は、はは……やった……やったぞ、コラァ!」
俺は歓喜を押さえられず、拳を振り上げた。
その俺に珍しくコルティナが抱き着いてくる。
「やった! やったよレイド! 私達、コルキスを倒したんだ!」
「ああ、やったぜ! よくやってくれたな、ティナ!」
愛称を呼んで、俺達は抱き合い、お互いを振り回しあう。
そんな中、マリアはライエルとガドルスの元に駆け寄り、その傷を癒していた。実に気の利く神官である。さすが聖女様だ。
こうして、邪竜コルキスは討伐され、俺達は伝説になったのだ。
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