第41話 後始末

 とにかく、後始末を付けなければならない。

 いつまでもこのエルフの子を放置しては置けないし、材木の中にもまだ三人隠されているはずだ。


「そうだ、衛士の人を呼んできてくれる? わたしはもう足腰ががくがくで」

「あっ、そうだ。その子達は?」

「人攫いに攫われてた子。この子達も見ていないといけないから」

「え、じゃああの人は人攫いだったんだ……」

「なんだと思ってたの」

「なんだかよくわからないけど、ニコルちゃんをいじめる悪い人だって思ったから」


 『なんだかよくわからない』で、そんな最終兵器を人に向けるんじゃないよ!?

 俺はある意味無慈悲なミシェルちゃんの行動に、こっそりと戦慄した。


「と、とにかく、そんな訳だから人を呼んできてくれると嬉しいな」

「うん、衛士の人と、あとフィニアお姉ちゃんと……コルティナ様にも教えてくる!」

「え、ちょっと……!?」


 待って、この怪我した状態でフィニアに知らされたら、また泣かれてしまうじゃないか。

 俺はミシェルちゃんを止めるべく、立ち上がろうとしたが、力の抜けた俺の足は言う事を聞いてくれなかった。

 そして彼女は、瞬く間に俺の視界から走り去っていったのである。

 その元気さがウラヤマシイ……





 その後、街の衛兵とマクスウェルがやってきて、俺達を保護してくれた。

 俺は事情を話した直後に疲労で眠り込んでしまったのだが、次に目を覚ました時は自分の家で目を覚ましたのだった。

 どうやらマクスウェルの知人で、ライエルの娘という立場が、俺をしつこい聞き取り調査から解放させてくれたらしい。


 マクスウェルから間接的に聞いた事だが、この町では以前からエルフを標的にした拉致事件が発生しており、その調査のために二人も駆り出されていたらしい。

 そこにフィニアが機転を利かせて異変を察知し、事情を知らない俺が乗り込んでしまったという訳だ。

 幸い、俺の身は無事だったが、結構危険な連中だったようだ。


 それよりも俺の問題は別にあった。


「ホントにもう! ニコル様は目を離すとすぐに危ない事に首を突っ込むんですから!」

「いや、ゴメンなさい。でもそこまで危険だとは思わなかったし」

「そもそもなぜ戦うなんて事になったんです? 逃げればよかったじゃないですか」

「いや、人質取られて、逃げるに逃げれなかったので」

「そこらの有象無象よりも、ニコル様の方が大事です!」

「いやいや、フィニアちゃん? 攫われてた子には結構な有力貴族の娘もいたから、そこは穏便にね?」


 怒り心頭で俺にお説教をかますフィニアを、コルティナが取り成してくれる。

 しかしその救いの手も、興味深げに俺を眺めて冷やかしにかかった。


「それにしても単身で誘拐犯相手に大立ち回りなんて、ニコルちゃんってば、実は見かけによらず結構ヤンチャなのね?」

「それはもう。目を離すといつもどこかへ消えちゃうんですよ」

「わたしは自由を貴ぶ精神せーしんを持っているの」


 正座させられたまま、胸を張って宣言して見せるが、さすがに威厳はない。

 それに悪を前に短絡的に事態を解決しようとするのは、前世からの俺の悪い癖かもしれない。

 この短絡さで悪人を排除しまくっていたら、いつの間にか暗殺者として名を馳せてしまっていたのだ。


「たしかに打つ手は他にもあったかもしれない。そこは反省」

「危険な真似は本当に……本っ当に勘弁してくださいね?」

「うん、極力前向きに善処したい所存でございます」

「なんですか、その役人みたいな言葉遣いは……」

「アハハ、この子は頭が回るねぇ。マリアに似たのかな?」


 コルティナが俺の背中をパンパン叩いて、喜んでいる。

 こいつは猫人族特有のお気楽さを持っているので、あまり尾を引くような思考はしない。


「よし、ここはみんなでお風呂にでも入って、ニコルちゃんの武勇伝を聞かせてもらうとしましょうか」

「コルティナ様、わたしとしても今回の事は気が気ではないのですけど……」

「じゃあ、過去の武勇伝でもいいよ?」

「では、マリア様のお気に入りのカップを割った時にこっそり庭に埋めて隠した話を――」

「ど、どうしてそれを!?」


 あの時俺はマリアのカミナリを畏れて、慎重に慎重を期して行動したはず。

 その俺の痕跡を、素人のフィニアが見抜いただと?


「お庭の手入れをしていたら、不自然に土が掘り返されていた痕跡を見つけまして」

「うぐぅ」

「アッハハハハ、本当にニコルちゃんはヤンチャなんだ。これから楽しくなりそう!」


 元々が陽気な猫人族としては、賑やかな事は歓迎すべき事なのだろう。

 俺としては、幼少時は静かに修行に専念したい所なのだが。


 コルティナに抱えられて、風呂場に連行されていく俺。

 しょっぱなから波乱含みのラウムでの生活は、こうして始まったのである。

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