第20話 未来への展望
未来への展望はとりあえず整った。
二年後にラウム王国の魔術学院入学を目指して、勉強する事になったのだ。
俺は干渉系魔術というギフトを持っている。
これは武器などの性能に一時的に干渉する事で、その攻撃力や防御力を強化する、いわゆるサポート系の魔術である。
決して強い攻撃力がある訳でもなく、また強化した魔術も短ければ数分、長くても一日程度のため、永続性はない。
少し魔術を齧った程度の術者でも使える、簡単な取り回しの良い魔術。それが干渉系魔術である。
「だからと言って、侮ったモノじゃないわよ。紙一重の戦いになればこの魔術の効果が生死を分ける事もあるし、高レベルになればなるほど、とんでもない効果を生むのがこの魔術のいい所なんだから」
教壇に立ったマリアが、胸を張ってそう説明した。
ここは俺の――というかライエルの屋敷の一室で、ここで俺達は魔術について学んでいくことになった。
俺と同じように学院入学を目指すミシェルちゃんも、ここで魔術の基礎知識を勉強する事になっている。
彼女は入学するのは魔術学院ではなく、冒険者基礎技術学院というまた別の系統の学院なのだが、理事長は魔術学院と同じくマクスウェルの爺さんである。
「そーなの?」
「ミシェルちゃんは特に恩恵が大きいんじゃないかしらね? ニコルがミシェルちゃんの弓を強化して、ミシェルちゃんが敵を倒すなんてコンビネーションもできるようになるのよ」
「それ、すごい! わたし、ニコルちゃんと一緒にやる!」
ブンと腕を振り上げ、元気よくそう宣言して見せるミシェルちゃんだが、それは俺が干渉系魔術を使いこなせるようになることが大前提である。
俺は今まで、魔力を感知する事はできているのだが、それを魔術として効果を発揮させる段階には到っていないのだ。
「でもママ――」
「先生と呼びなさい、ニコル」
メッと俺の額を指でつついて、呼び名を是正させる。
こういう時の彼女の癖だ。妙にスキンシップが過剰になり、馴れ馴れしい態度を取るようになる。
後衛の治癒術師という立場もあり、基本的に守られる側である彼女にとって、率先して指導するという事は物珍しい事なのだろう。
「せんせー、基礎能力を上げるだけしかできないなら、それほど劇的な効果は見込めないんじゃないですか?」
「いい点を突きますね、ニコルさん。ですが干渉と言っても千差万別。中には存在そのものに干渉する魔術だってあります」
「そんざいそのもの?」
「そう。例えば自分に干渉してモンスターに変身したりする魔術もあるのよ」
「もんすたー!?」
わりと本気で驚いた。
マクスウェルもそう言う魔術系統は使っていたが、モンスターに変身する場面など見た事が無い。
だが、マリアはそれからさらに驚くべき言葉を口にした。
「もちろんよく知ってる生物じゃないと変身できないけどね」
「よく知ってる……」
そうだ、よく知ってる生物に変身できる。そして俺がこの世界でもっともよく知ってる存在、それは……
「レイドの姿に……変身できる?」
「レイド……? ああ、フィニアから聞いたのね。お母さんの昔の仲間のこと」
「え、うん。そうそう」
うっかり口に出してしまったが、その可能性は十分に存在する。
女の身体になってしまったが、男の身体に戻るチャンスは残されていたのだ。
「その変身魔法、わたしも使いたい!」
「それは難しいわよー? なにせ干渉系の最上位魔法だもの」
「でもやる! あ、効果時間はどれくらいあるの?」
「そうね、変身は肉体にかかる負担が大きいから、逆に効果時間は長めだったらしいわ。一日持ったかしら?」
一日も! つまり一度レイドに戻れば、翌日までかけ直す必要がないという事じゃないか。
実質、元の身体に戻ったも同然になる。
「はいはい。とにかく雑談はここまでよ。まずは体内の魔力を感じ取る訓練から始めましょう」
パンパンと手を叩いて、マリアは魔術の基礎理論に戻っていく。
だが俺はいまだ興奮冷めやらない。この身体では剣を振る事もままならない。だが、この立場を利用してライエルの剣技を学び、元の身体でそれを使えたら……
俺は目指す高みに到達できるかもしれないのだ。
その後、俺は魔力を感知する所まではできていたので、多少手間取った演技をした後、感知に成功したように見せてみた。
その成果の速さにマリアは目を瞠らせたが、もっと前からそんな感じがあった的な事を話しておくと、納得したような顔をして次のステップに進む事になった。
ミシェルちゃんはまだ魔力を感知する事ができなかったので、とりあえずは俺だけ魔術の授業を先に進める事になったのだ。
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