第54話荒野の狂戦士カインと女騎士8
二人はこのアンデッドを始末し、奥の部屋にあったアーティファクトを取るとその日は地上へと帰還した。
それからサライとカインは、何度か一緒になって遺跡の探索を行った。
そうなると人間とは不思議なもので、最初は敵対していてもいつの間にか互いに情が沸いてくる。
サライにとって、カインは兄を殺した憎い仇ではあるが、遺跡探索の途中でトラップやモンスターから何度か救われている。
それにカインと組んで遺跡へと潜り込んでいる内になんとなく、サライはおぼろげではあるが、何となくこのバーバリアンの人となりが見えてきた。
カインは善人とは言い難いが、しかし仲間を裏切るような真似だけはしない。
文明社会からのはみ出し者であるこの蛮人は、言わば生粋の無法者と言えるのだが、しかし自らの筋目だけは必ず通す。
文明人特有の虚栄心や欲望を見てきたサライにとって、カインのような男は良くも悪くも目新しく映った。
(本当に不思議な男だ……)
サライにとって、カインは人間というよりも人語を解し、自由奔放に生きる野生の獣のような存在だ。
だが、カインのそんな生き様は、なんとも捨てがたい魅力に包まれている。
あるいはサライは、知らず知らずの内にそんなカインに心を動かされてしまったのかもしれない。
マックルベリーの爺さんは、鋳掛仕事と細々とした行商で飯を食っている。
この道に入ったのは、もう随分と歳を食ってからだ。
それ以前は小作人として暮らしていた。
鋳掛けも出来たので、村の連中相手に底の割れた鍋や釜、穴の空いた薬缶の修繕をして、その見返りに金銭や食料を貰っていた。
だがある時、暮らしていた村が疫病と飢饉に襲われてしまい、村を捨てざるを得ない状況に陥った。
家族も家も土地も持ってはいなかったマックルベリーは、見切りをつけるとすぐに村を出た。
こういう時、何も持たざる者は身軽だ。
逆にいつまでも土地に執着していた村人達は、容赦なく降りかかる疫病や飢餓の前に次々に命を落としていった。
あれから村を捨てて早五年、還暦はとっくに過ぎている。
ある程度まとまった金が出来たら、どこかの村か町に定住し、静かに余生を送りたいとマックルベリーは切に願っていた。
そんなマックルベリーが戦火の吹き荒れる国境にやってきたのは、別に耄碌したからでも世を儚んで、戦に巻き込まれて死にたいと思ったからでもない。
ここなら大儲けできるチャンスがあると考えたからだ。
戦場は危険ではあるが、同時に商売をするには打って付けでもある。
なんせ商品は普段の三倍、四倍の値段を付けても売れるし、剣や槍、鎧などは恐ろしく安く手に入る。
高値で商品を売りさばき、安く買い叩いた具足を街で売り払えば、ひと財産出来る。
それに鋳掛けの仕事もこういう戦場では、意外と重宝される。
鍋釜に限らず、鋳物であれば敵を知らせる鐘などの修理も可能だからだ。
勿論、儲けたいのであればそれだけのリスクは付きまとう。
どんな時代だろうがどんな場所だろうが、リターンとリスクは常に比例するからだ。
しかし、峻険な崖を登らねば、グリフォンの卵は手に入らない。
それで一頭の老いぼれロバとマックルベリーは、共にこの国境へと訪れた。
今日も行商と鋳掛けの仕事を終えて、屋台で酒を一杯やった。
蒸留酒を何杯も引っ掛けて、頭がジンジンと痺れるくらいに酔っ払う、それがマックルベリーの唯一の楽しみだ。
コップに注いだ度数の強い酒をガブガブとやりながら、マックルベリーは今日も機嫌良く鼻歌を唄う。
その時、屋台に新しい客が訪れた。
黒革の鎧に身を包み、二丁拳銃を腰にぶら下げているその客は、しかし、まだ年端も行かないような子供だった。
「おう、親父、酒をくれ。それと焼酎の詰まった小樽も貰おうか。カインの兄貴の土産にしたいんでな」
客はアルムだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます