第48話荒野の狂戦士カインと女騎士2

灌木の茂みに潜り込み、サライは迫る敵を迎え撃った。


相手は九人ほどの山賊だ。


山賊達が雄叫びを挙げながら、山刀片手に突っ込んでくる。


細身の剣を青眼に構えたサライは、正確に山賊達の片目を脳みそごと貫いていった。


山中にこだまする、けたたましい山賊達の悲鳴──熟練の腕前といっても良い。


潅木を障害にし、山賊達の足並みをばらけさせながら、一人ずつ確実に仕留めていく。


最後の一人を始末し、サライは山賊の鮮血に濡れ光る刀身を布で拭った。


森の中に静寂が戻る。


従者は既に山賊達の手に掛かっていた。


荷物を乗せた馬もどこに逃げたのか、見当がつかない。


「困ったな……」


こんな森の中でテントも食料もなく、独りきりというのは、流石に良い気分はしない。


サライは騎士だ。だが、同時に女でもある。


こんな場所に一人でポツンといるのは、心細い。


(まずはどこか休める場所を見つけ、夜明けとともに近くの村に向かうか)


そう考えたサライは、広大な森を歩き始めた。


木立の物陰や茂みに注意を払い、慎重に進んでいく。


いつ何時、物陰に潜んでいた山賊や猛獣が飛び出してくるかわからない。


だから警戒は常に怠ってはならないのだ。命が惜しければ。


半刻(一時間)ほど森の中を歩いていると、急に雨が降り始めた。


頭上から降り注ぐ大粒の雨が、サライの肩や背中を濡らした。


身体を冷やしてはならない。


そう思ったサライは、地面に落ちた枯葉を踏みつけながら、急いで雨宿りの出来そうな場所を探し求めた。


更に強まる雨足。土砂降りの雨だ。


薄闇に包まれた森は、雨音にすっかり閉ざされた。


濡れ鼠になりながら、サライは遠目に明かりを発見した。


サライはその明かりへと駆け出していった。


するとサライは、祠を発見した。


灯りは祠の奥から漏れているようだ。


祠の中へと、サライが慎重に足を踏み入れる。


殺した山賊達の仲間かもしれない。


そういう懸念はあったが、サライは自分の腕に自信があった。


このまま忍び足で近づいて、奇襲を掛けることもできる。


そう考えていた矢先に相手の方から声をかけてきた。


「そこにいるのは誰だ。休みたければ、遠慮せずに入ってこい」


相手の言葉に気勢を削がれたサライは、しかし、剣の柄を握ったまま進んだ。




ランプの灯りの前に座っていたのは、少年と屈強な肉体を持った戦士だった。


「また一人、祠に客がやってきたか。遠慮せずにそこに座って休むといい」


五徳で囲んだランプ──その上に置かれた小さな鍋の湯が、沸々と煮立っている。


「兄貴、もうスープが出来たみたいだぜ」


少年が、鍋から金属のカップにスープを注いでいった。


「姉ちゃん、あんたも飲むかい?」


少年から尋ねられ、サライは首を横に降り「遠慮しておこう」と告げた。


「そうかい」


カップのスープを啜りながら、少年はそれきり黙ると、サライを観察するようにジッと見つめた。


「どうやら旅の者と見受けるが、二人ともどこに向かう途中なのだ?」


すると、大男の戦士が口を開いた。


「イスパーニャとアルジャノンの国境地帯だ。あそこでは小競り合いが起こっているようだからな。

それで戦場稼ぎでもするかとやってきたのだ。そういうお主も目的は同じだろう?」


男の言葉にサライは頷いた。


「ああ、所で名前がまだだったな。私の名前はサライ、これでも騎士だ」


サライが騎士の名乗りを上げても、男も少年も全く動じる素振りを見せなかった。


ただ、男が銀色の髪を僅かに揺らしただけだ。


「俺の名はカインだ」


「俺はアルム、よろしくな、騎士の姉ちゃん」


「二人とも傭兵か。なるほど。特にカインと言ったか、かなりの腕前とお見受けするが」


鎖帷子から盛り上がったカインの筋肉と、大地に根を張った樫の木の如き四肢を眺めながら、サライがいう。


「カインの兄貴に敵う奴はどこにもいねえさ。

ムスペルヘイムのカインといえば、傭兵達の間じゃ、知らねえ奴はモグリくれえなもんだぜ」


そこでサライの顔色がサッと変わった。


「そうか、噂には聞いていたが、お前があの蛮勇カインか……」


その刹那、サライが引き抜いたレイピアで、カインの顔面を素早く刺突する。


だが、刀身はカインの二本指に挟まれ、それ以上進むことはなかった。


「サライといったな、お前は何者だ。俺にどのような遺恨がある?」


カインが女騎士の横顔を見透かしながら、理由を尋ねた。


「先の戦で私の兄はお前の手にかかって死んだっ、私の兄は総督タルスに仕えていたのだっ」


「なるほど。俺を恨む理由、わからんでもない。だがな、立場が逆だったなら、俺がお前の兄に討たれていただろう」


サライがその燃え上がる明眸で蛮人を睨みつけ、叫んだ。


「黙れっ、黙れっ、この血に飢えた蛮人がっ、貴様と私の兄を一緒にするなッッ」


その時、サライの後ろに回ったアルムが、女騎士の後頭部に銃口を突きつけた。


「兄貴、このまま撃っちまってもいいか?」


「やめておけ。女を殺すと目覚めが悪くなるぞ」


舌打ちし、アルムが地面に唾を吐く。


この少年は自分と自分の仲間に敵対する者は、誰であれ容赦しない。


幼いながらもその精神は、狼の如き獰猛さと残酷さを有している。


「ふん、殺すなら殺せばいいっ」


「女ながらに気骨があるな、サライよ」


と、言った瞬間にカインは、レイピアごとサライの身体を自分の方へと引き寄せた。


そのままサライの身体を掴み、下の衣類を剥ぎ取ってしまう。


サライがカインの腕の中で騒ぎ、暴れるが、しかしこの蛮人の膂力の前には、その抵抗も虚しいだけだった。


「へ、まるで跳ねっ返りの山猫だぜ、この騎士様はよ」


「やはりお前達は恥知らずの野蛮人だっ、汚らわしい山犬どもだっ」


サライを小脇に抱えると、カインは剥き出しになった真珠色のその双臀に掌を叩きつけた。


祠の内部にサライの二つの肉丘を打擲する音は反響した。


サライが美しくしなやかに引き締まった肢体をバタつかせ、必死でカインの腕から逃れようとする。


「やめろっ、やめてくれぇっ」


その間にもカインは、サライの尻肉を叩き続ける。


その度にサライの珊瑚色の唇から悲鳴が迸り出た。


激しい痛みと屈辱に切れ長の双眸から涙を溢し、女騎士は華麗に通った鼻梁と頬を濡らした。


「俺は女を殺したりするような男ではないが、犯すし、このように尻も引っぱたくのだ」


カインがさも愉快だと言いたげに大声で笑いながら、太鼓代わりとばかりにサライの尻朶を打つ。


蛮人の掌が繰り出す強烈な打撃を加えられ続け、サライの臀部は無残なまでに腫れあがり、所々内出血を起こしていた。

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