第39話蛮族の闘士カインと囚人
華祭会も怒羅軍もカインの手口には薄々感づいていた。
稚拙といえば稚拙な手口だったからだ。
それでも確信までは持てなかったし、どちらも手打ちに持っていきたいと考えていた。
だから提示された条件を飲んでしまった。
これはどこかで焦っていたせいでもある。
それで手打ちが終わった途端、両者の頭は俄然、冷静になり、なんでこんな幼稚な手段に乗せられたんだと、ホゾを噛んだ。
これもやはり人間の業である。
混乱している時は、どんな馬鹿な話にも惑わされるが、その癖、物事に決着がついた途端に頭が回り始めるのだ。
だが、今更気づいたところでもう遅い。
とっくに金は払ったし、その金も全てスカイツリーからばらまかれている。
とんでもない疫病神だ。何かヤバイ薬でも打っているのかもしれない。
華祭会も怒羅軍も、ただ、ただ、ため息を漏らすしかなかった。
その頃、カインは時田礼太郎に預けていた荷物を受け取ると、ゲートを潜って元の世界へと戻っていた。
(中々面白い場所だった。これからもちょくちょく顔を出すとするか)
そう考えながら、カインは咥えたラッキーストライクを喫かした。
「どうじゃった、カイン?」
「うむ、グリニーよ、異世界は中々に面白い場所であった。おお、そうだ、いくつか手土産も持ってきたぞ」
「ほほう、どれ、どれ」
グリニーの言葉に無言で頷くと、カインが、異世界から持ち込んだ書物や品物を床にぶちまけた。
早速グリニーが散乱する品々を見聞し、設計図などを一つ一つ見ていく。
「何か面白そうなものはあるか?」
「ふむ、どれもあまり見たことがない代物ばかりじゃな。ふふ、何だかアイディアが沸いてきたわい」
「それは良かった。次に異世界に行く時も何か珍しい品々を持ってくるとしよう」
「うむ、頼むぞ、カインよ」
スマートフォンを弄りまわしながら、グリニーはカインに言った。
「……これは凄いですね、カインさん」
と、食い入るように見つめるセルフマン。
「そうであろう。これは良い商売になるぞ」
セルフマンが熱心に眺めている書物──異世界から持ち込んだ無修正のポルノ雑誌だ。
「ええ、確かにこれは良い商売になりそうですよ。なんせ、男の下半身に強く訴えかけてくるものがあります。
これなら確実に儲かるでしょうね」
商売の基本とは何か。それは相手の欲望に訴えることである。
特に人間の三大欲求、性欲、食欲、睡眠欲に訴える商売ほど強いものはない。
だから売春婦と飯屋は世界最古の職業と呼ばれるのだ。
「それとこういうのもあるのだが」
カインが懐から取り出したるは、切れ込みの入ったコンニャクである。
「なんですか、これは?」
「触ってみるが良い」
言われた通りにコンニャクを触るセルフマン──プルプルとして柔らかく、弾力のある感触に思わず頬を緩めた。
「面白い感触ですね、これ」
「その切れ込みの穴に指を入れてみろ」
「どれどれ」
セルフマンがコンニャクの穴に人差し指を突き入れると「おお、これは中々の具合……」と感想を漏らす。
潤滑剤を仕込んだコンニャクの切れ込みが、ヌルヌルとセルフマンの指を咥えていく。
セルフマンは挿入した指を前後に動かし、コンニャク内部の感触を楽しんだ。
「これをこの艶本と抱合せで売る。どうだ、悪くないであろう」
「ええ、素晴らしい考えですよ」
「では、しっかりと商売に励むが良い。さてと、俺は用事があるのでここら辺でお暇させてもらうぞ」
立ち上がったカインが酒場から出ていく。
カインは薄暗い牢獄内を見渡した。カビと湿気の臭気が鼻を突く。
この野生児の両腕は、鋼鉄の輪と鎖で拘束されていた。
冷たい石床にアグラをかき、カインは若い牢番に対して、酒と食物を持ってくるように命じた。
だが、牢番はそんなカインを鼻でせせら笑うだけだった。
「ふん、囚人の癖にやたらと態度がでかい奴だな。いっぺん、痛い目に合わせてやろうか」
「ほう、面白そうだ。やってみるが良い」
石壁から伸びた鋼鉄の鎖を引き千切り、鉄格子まで跳躍すると、カインが薄気味悪い笑みを牢番に向ける。
そのまま鉄格子を両腕で掴むと、左右にへし曲げた。
頑丈な鉄格子も、この蛮人の怪力の前には、飴細工も同様だった。
広がった鉄格子から腕を伸ばし、カインが牢番の頭部を鷲掴みにして引き寄せる。
「いいか、よく聞け。俺は空腹で我慢ならんのだ。なんならお前を晩飯の変わりにしてもいいのだぞ。
俺はムスペルヘイムの蛮地の男よ。人肉の味ならよく知っている。ふむ、お前、中々うまそうだな。
若くて、食いでがありそうだ」
真っ赤な舌先で唇を舐め、カインが牢番の頬に息を吹きかける。
牢番の頭部にギチギチと食い込むカインの指先──小便を漏らしながら牢番は食わないでくれと叫んだ。
「た、頼むっ、何でもするから勘弁してくれっ」
冷や汗と涙で顔を濡らした牢番が、泣き喚いて哀願する。
カインは手を離すと牢番を解放してやった。
「だったら、とっとと食物を持って来い」
泣き顔の牢番が、ヒイヒイ言いながら酒と食物を運んでくる。
「こ、これでいいのか……」
「ああ、これで良いのだ」
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