【化け物のプレゼント】

【化け物のプレゼント】


昔、昔あるところに子供を食らう化け物がいました。その化け物は子供を見つけると、お菓子をあげたり、オモチャをあげて幸せに笑ったところを食らうのです。


『子供がシアワセになった瞬間はなんてオイシイんだ!!』


化け物は街をさまよい子供を食べて回ります。

大人達がどんなに気を付けてもお菓子やオモチャをもらって喜ばない子供なんていません。そうして街からは次々と子供が消えました。


そんなある日、化け物は街外れのお屋敷に立ち寄りました。大きなお屋敷には可愛らしい女の子がひとり。

化け物はなんて可愛い子だろうとゴクリと唾を飲み込みます。しかし、その女の子は驚きもせず化け物を見上げるだけでした。

化け物はいつものように女の子にお菓子を差し出しましたが女の子は興味を示しません。

次の日、化け物は今度はオモチャを持ってお屋敷に行きました。それでも女の子はなんの反応も示しません。また次の日、化け物はお菓子とオモチャを持って行きました。

女の子の反応は同じ。笑いも泣きもせず人形のように屋敷の扉を開くのです。


化け物は考えます。

『どうすればこの子はシアワセに笑ってくれるのだろうカ』


化け物ははじめて女の子に話し掛けてみました。


『お菓子はキライ?』

女の子は横に首をふります。

『オモチャはキライ?』

女の子は再び首を横に。

化け物は困ってしまいます。なにせ今までお菓子やオモチャで喜ばない子供は居なかったからです。


『キミはナニがスキ?』


化け物の問いかけに、女の子は真っ直ぐ化け物の胸を指差します。

そこには綺麗なブローチが……次の日、化け物は可愛らしいアクセサリーを持って女の子に会いに行きました。

けれど、女の子は喜びません。

自分の着けていたブローチを差し出してみる化け物でしたが、女の子は首を横にふるだけでした。


次の日になり今度は洋服を持っていってみましたがやはり女の子の反応は同じ。


すごすごと化け物が帰ろうとすると、女の子は化け物の服をひっぱって呼び止めます。

女の子に連れられるまま中庭に行くと、テーブルの上にティーセットが。

女の子は不器用そうにティーカップにお湯をそそぐとそれを化け物に渡します。どうしたら良いかわからなかった化け物でしたがお菓子を出すと女の子はテーブルについて、お湯とお菓子を交互に食べ出しました。化け物も一緒にテーブルにつくとまだ一口も飲んでいないティーカップにまたお湯を注ぎます。


次の日、屋敷の扉を叩いても女の子は出て来ませんでした。

不思議におもい、中庭を覗いてみると女の子は昨日と同じテーブルについてティーセットを並べています。戸惑いながらテーブルにつくと女の子は昨日と同じように少し冷めたお湯をティーカップに注ぎました。そして化け物が出したお菓子を人形のような顔で昨日と同じようにほおばります。


そんな日が何日か続き、化け物はもう一度女の子に質問をしました。


『キミは、ナニが、スキ?』


女の子は前と同じ様に化け物の胸を指差します。


女の子がティーカップに入れてくれた水を飲みながら化け物は胸に手を当て考えます。

『ブローチでも洋服でもない、でも、彼女はこの胸を指さす。彼女がスキなものとは――』

深く息を吸った途端、化け物の手の下でナニかがトクンと小さく、でも確かに跳ねました。その感触を手に女の子の顔をみると、少し女の子が笑っています。化け物も答えがわかったことに喜び女の子に笑いかけました。


『マタあした』


夕闇が空に羽を伸ばす中、化け物は女の子に大きく手をふります。女の子も化け物に小さく手をふります。


次の日、女の子は朝早く起きていつものようにティーセットを用意して、お湯を沸かし、中庭に向かいました。中庭のテーブルにはすでに大きな人影。

女の子は嬉しそうにテーブルに駆け寄り、化け物の顔をのぞき込みました。化け物はとても幸せそうな顔で笑っています。

テーブルには大きくも小さくもない、可愛くラッピングがされた箱と手紙が。

手紙には下手くそな文字で《キミが欲しかったモノ。喜んでくれタ?シアワセ?》と書かれてしました。

女の子は蓋を開けなくてもその中身が何なのかわかりました。そしてはじめてポロポロと大きな涙を流して化け物に抱き付きます。


プレゼントの箱から滲み出した滴はポタリ、ポタリと中庭を赤く染めました。


その日から街で子供を食らう化け物の話は聴かれなくなりました。

そしてそんな化け物が居たことすら誰もが忘れ、街にはただ、子供の笑い声が響くのでした。


《めでたし、めでたし》

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【七月の新芽】――七月 不黒 @bungei6kari9

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