【魔女の人形】

【魔女の人形】


その魔女は静かに語り出した。多くの魔女の話について。今も生き続けている魔女について。

彼女は魔女の中ではおちこぼれだったと語る。

多くの魔法は使えない。強大な魔法も使えない。けれど、この付近では一番長く生き続け、他の魔女を見取り続けてきたと。


魔女という存在は魔女になったときから不死に変わると彼女は口にする。劫火も水害も嫉妬も化学も魔女を殺すには足らないそうで。

魔女の死は数少ない。誰かの大きな願いを叶えたときや禁忌にふれてしまったときくらい。

それでも魔女が多くないのは、みんな自ら命を手放すからだと彼女は天井をみつめた。


魔法を習ったときに一番大切なものとして教わるのは使い魔の作り方や人形を動かす魔法。とにかく独りにならない為の魔法。

それでも誰もがそのときはそんな魔法を真面目に覚えようとはしない。そして多くの月日が経ってから気が付く。後悔する。その日のことを。

魔女は魔女であり、どんなに人の世界に紛れ込んでも、人達から愛されても、ふとした瞬間に気が付くのだという。ズレに。違いに。

そして堪えられなくなる。何かに。

同じ魔女同士でもその何かはわからず、埋められない。だから消えるのだと。死なないはずの存在が死ぬのだと。


魔女は魔女になった瞬間から少しずつ何かが流れ出していく。きっとそれは人間の寿命と同じ様なものなのではないかと彼女は語った。

僕はそのこと、つまり魔女たちの感じている何かとは『寂しさ』なのではないかと口まででかかったが言葉にすることができなかった。寂しくて死んでしまう存在。決して埋められない寂しさ。それを設定したのが神ならば残酷なものだ。


お茶を僕の前に差し出しながら魔女は話を続けた。

そんな中で自分が何故長く生き続けているのかを。彼女自身も寂しさに毎日のようにさいなまれているという。それでもそんなにも長く彼女が生き続けている秘訣は、基礎と呼ばれるような魔法を彼女は徹底したことだと語る。

魔女になった少女達がおろそかにするようなそんな魔法をおちこぼれだった彼女は必死に覚えたのだという。空を飛ぶこと、火をおこすこと、ものを動かすこと、記憶を消すこと、歳をとらないこと、水のなかで息をし続けること、そんな基礎と呼ばれる魔法を徹底して覚えたそうだ。もちろん、人形を動かす魔法も……

魔女は僕の前に置いたお茶を見ながら「飲まないんですか?」と尋ねてきた。いただきますと僕は手を伸ばし、その瞬間不意に思った。自分は一体誰だのだろうかと。そしてこの瞬間を何度も体験している気がすると。

僕という存在はもしかすると彼女に作られた人形でこれは彼女のおままごとなのかもしれない。そんな恐怖を感じながらも決められた行動の様に僕はお茶を飲みほしたのだった。


そして、その魔女は静かに語り出した。多くの魔女の話について。今も生き続けている魔女について――

僕はその初めてきく話への興味を押さえられないでいた。窓の外の景色は刻々と変化していた。

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