短編【片腕】

旅の途中で外れた片腕を持っている、片腕のないブリキのロボットに出会ったことがある。

体が古い古いテレビを模して造られていて、顔はよくいるブリキ人形の顔をしていた。

特徴といえば頭に逆三角の形をしたアンテナが生えていたことかな。


そのブリキのロボットは何かを探している様子だったので僕は声をかけてみた。

「その腕付けてあげようか?」って。

ブリキのロボットは答えた。

「腕を付けてくれる人を探していたわけじゃありません」


ブリキのロボットは手に持っていた片腕を僕に見せながらこういった。


「僕はこの腕を落とした人を探しています。困っているはずだから。僕も片腕がないからその苦労はよくわかるんです」


僕からすればその腕はブリキのロボットの腕となんの違いもわからない。だから、少しおかしな気分だったよ。

誰のものかわからないなら自分に付けてしまえばいいのにって。

ブリキのロボットは改めて僕に「きっと僕と同じようなサイズのロボットだと思うんです。みたことありませんか?」って訊いてきた。

「しらないな」と答えると少しお辞儀してブリキのロボットは通りをずっと歩いていったんだ。


それから数カ月して僕はまたそのブリキのロボットに出会った。まだ片腕は持ったままで、少し錆びついてきていた。

「やあ、まだ見つからないのかい?」

そんな風に声をかけてみると「どちら様ですか?」と尋ねられたよ。

そのブリキのロボットはあのときにあったロボットとは別のロボットだったんだ。


僕の話を聞いたブリキのロボットは少し嬉しそうに、前にロボットを見かけた町に行ってみると歩いていった。


また数カ月が経った頃に僕はまたブリキのロボットに出会った。もちろん片手を持ったね。

「こんにちは」と声をかけると「こんにちは」と返事をされた。

「片腕のない僕みたいなロボットをみたことはありませんか?きっと困っていると思うんです」

今まで会った二人のブリキのロボットと同じく、このロボットも腕の持ち主を探していた。だから僕は今までに二人見かけたことを伝えたんだけど、とても嬉しそうな、でも少し困った風にロボットは歩いていった。


今度は数カ月も経たないうちに僕は再びブリキのロボットに出会うことになった。でも、今度のブリキのロボットは片手を持っているわけでもなく、しかも二人一緒にいて、二人とも両腕が付いたブリキのロボットだった。

「君達とどこかで会ったことがあるかな?」と尋ねると「いいえ」という返事。

今まで会ったロボット達の話をすると二人のロボットはとても驚いた。けれどすぐに嬉しそうに「こうして巡り会えたわたしたちは幸運だったのね」とマジックハンドのようなお互いの手を重ねてギュッと握り合っていた。


旅をしていると色々な人達に出会う。それは、こんなロボット達もいれば、こんなロボットを作った人達やそれをみて楽しむ人達もいた。


それから随分と経った頃に僕はまたブリキのロボットに会うことになる。両腕がそろったブリキのロボット。

力なく道の端に座り込んでうわごとのように言葉を発し続けていた。

その周りに他のブリキのロボットはいる様子はなく、声をかけても返事もない。ただずっとそのロボットはこう言い続けていた。


『さみしい。さみしい。さみしい。さみしい』と。

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