6章 源さんと着ぐるみ殺人事件(1)

HIGASHITAISEI HIGHSCHOOL FESTIVAL

CHAPTER3.1 TITLE:

『マジシャンには種も仕掛けもないと思わせる技術がある』


〇視点:黒部空乃

〇同行者:小池咲

〇文化祭1日目・14時25分


 種も仕掛けもない真っ赤なハンカチは、マジシャンの手の中にギュウっと押し込められて、私たちの目の前から完全に消える。


「ワン、トゥー、スリィ」


 おしゃれにピンと立てた人差し指を1回、2回、3回と振り、マジシャンは中にハンカチの入った拳をブルブルッと震わせる。「いま、魔法がかかったよ」という演出なのだろう。

 握った手はぱっと開かれ、中身のハンカチは、もともとの赤色を青色に変えて出てきて、ふわふわゆっくりと落下した。

 これまたおしゃれに、執事風の腕をくるっと胸の前で曲げるお辞儀をしてみせたマジシャンに、観客からはまばらな歓声とそこそこの拍手が贈られた。

 手際とかは滑らかで、何度も練習を重ねたのだろうなぁ、と努力がうかがえたけれど、正直テレビやら小中学校の出し物やら簡単マジック講座みたいなムック本やらで見慣れたモノだから、正直な感想としては「まぁこんなものだろう」って感じだ。

 個人的には、1つ前に出てきた人のコインマジックが鮮やかで好きだった。あれ、外国の硬貨でやってるのかな。


「我々マジック研究会の実力……分かって頂けたでしょうか」

「それでは、ここからはゲストのお2人に登場してもらいましょう」


 舞台が暗転し、スポットライトが目まぐるしく回転する。ワンテンポ遅れて流れ始めたBGMは、素敵で不敵なアコーディオンを主旋律としたサーカス風音楽だ。

 私は、左手に持ったお盆の冷たい感触を確かめた。


「いよいよだね。自信は?」

「ない。……マジ研の顔を立てる自信は、な」

「ヒュウ!」


 かっこいい。惚れちゃいそうだぜ咲。

 2人並び、ヘッドマイクの位置を確認しながら、ステージに堂々と登場する。ここ半年の新聞部での活躍や体育祭で私たちが飛ばしたヤジのおかげで、けっこうな有名人である咲には、観客席から黄色い声援がワーキャー投げかけられていた。

 「小池ちゃーん!」「咲ぃー!」「よっ! 小池屋!」……。最後のはちょっと違う意味になりそうだけど。のり塩大好き。

 ずかずか歩いて、ステージの真ん中にふてぶてしく立ち、咲と2人で、持っていたお盆をスカートの前に構える。大勢の前に立つと流行りネタをやらずにはいられない宿命を背負っている私が嫌がる咲を無理やり付き合わせた仕込み芸だ。

 名付けて『サキ100%』with『ソラノ100%』。

 MCの一切を任されている喋り上手の部員が、不意打ちの笑いに声を震わせながら我々を紹介する。


「……ええと。ツッコミ待ち?」

「フリをお願いします!」

「自己紹介を促してください」

「よく分からんけど……じゃあ、お2人は、何者なのでしょうか?」


 よくぞ聞いてくれました!

 パンッ、とお盆を裏返し! 咲のお盆には『新』、私のには『聞』!


「……新聞部から来ました、小池咲と」

「ソラノ100%です! ヒヤヒヤしたんじゃなーい?」


 事実だけを描写すると大爆笑。主観を交えると、文化祭の空気なら正直なにやってもウケるんじゃないかなと謙遜せずにはいられない大爆笑っぷり。

 毎回言ってる気がするけど、学校行事で何かやるときは、みんな知ってる流行りネタやっとけば間違いありません。


「いやいやいや。やるならちゃんとリスクも背負ってやれよ」

「おっ? 部長さん?」

「ご自分で脱いでやってくれると……?」

「やるか! 失敗したらソッコー廃部だから!」


 まぁ確かに公衆の面前で部長氏の100%がアキラかになってしまえば、廃部もやむなしだろう。アキラかに。


「さて。今回、名探偵と名高い新聞部の小池ちゃんたちをお呼びした理由は他でもありません。お2人にはこれから、我々マジック研究会の行うマジックを間近で見て頂き、そのトリックを見破れるか! 挑戦して頂きます」


 今回の企画はいたってシンプル。

 新聞部内外から名探偵と名高い咲が、マジ研の披露するマジックを見てタネを推理し、その内容を言い当てることができれば新聞部の勝ち、見破られなければマジ研の勝ち、というものだ。

 ここまでのやり取りはだいたい事前の打ち合わせ通りなのだが、ここからはヤラセなし。初見のマジックを見てトリックを推理する、ぶっつけ本番の一発勝負だ。

 ……咲はたしかに、とてつもなく頭のキレる名探偵だけれど、今まで見てきた彼女の活躍は、学校内で起きた小さな事件や不思議を紐解くというものだった。マジックのタネを見破るという目的に関して、その能力は発揮されるのだろうか。

 咲は緊張を隠すように、片方の手を腰に当てて胸を張った。


「……頑張ります」

「2分で終わらせて、パフォコンの取材に向かわせてもらいますよ! 咲が!」

「おお! ナマイキだねぇ」

「実力相応な自信だと、すぐに証明してみせますよ! 咲が!」

「……空乃。消されたくなければ、無責任なことは言わないように」


 ……消すって、マジックでだよね?

 咲の物騒な物言いに縮こまりつつ、私はマジ研部長の司会を見守る。


「さて、新聞部さんの前口上も聞けたところで、さっそくマジックの披露に移りたいと思います! 今回新聞部さんとの対決のためにマジックを披露してくれるのは、このマジックの考案者でもあるマジック研究会の新星……文海将むん かいしょうくんです!」

「えっ?」

「文……?」


 文って……あの文くん? モンクの愛称でおなじみの?

 文くんは、私たちが出てきたのと反対側の舞台袖から姿を現したことで、私たちの内心の疑問に100%完璧に答えた。馬鹿みたいなシルクハットを被っていてもなお色あせることのないあの厭味ったらしい顔、間違いない、


「文くんって……マジ研、だったんだ」

「意外……だな」


 咲と小声で頷きあう。

 つかつかとステージの真ん中に歩いてきた文くんは、シルクハットを脱いでその中から青いゴム風船を取り出すと、それを手袋をはめた指で撫でるだけで割ってみせた。

 中から出てきた薔薇の造花を、キザっぽく片膝立てて咲にプレゼントし、また立ち上がって綺麗なお辞儀をした。すごい、一撃で観客の心を掴んでる。


「新聞部のお二方、ご機嫌よう。ご紹介に預かりました、文海将です」

「……また、とんでもなく分厚いメッキだな」

「マジシャンのときは、こういうキャラ作ってるのかな……」

「小手調べに、登場がてら1つササヤカなマジックを披露させていただきましたが。小池さん、今のマジックで、軽く指で撫でただけで風船を割ったトリック……見抜けましたか?」

「おそらくは」


 自身満々な咲の返答に、おおっ、と客席が沸き上がる。さすが渡良瀬先輩が雇った精鋭のサクラさんたち、前列で大きなリアクションを取って会場全体を盛り上げてくれている。

 咲は、文くんの手袋を指差すと、ちょっと喋りにくそうにヘッドマイクを持ち上げながら言った。


「おそらく。文くんは、ミカンなどの汁を手袋につけているのではないでしょうか」

「ほう、それは何故?」

「これは、よくテレビとかでもやってる豆知識ですが……ミカンなどの汁には、ゴムを溶かす弱い油分が含まれているため、ゴム風船などの薄い膜を溶かして、破裂させてしまうという特徴があるんです。それを利用し、風船を触った時にミカンの汁を付着させ、風船を破裂させた。……違いますか?」

「大当たりです」

「やったぁ!」


 私が声をあげるほど喜んでどうするんだって感じだけど、咲も小さくガッツポーズしているし、ひとまず緊張がほぐれてきたようで何よりだ。


「しかし、これはあくまでもチュートリアル。これから行う本番のマジックでは、そう簡単にトリックを見抜かせはしませんよ」

「……2分で終わらせて、パフォコンの取材に向かわせて頂きますよ」


 咲。かっこよく腕組みしてるところ悪いけど、それ私が言ったののパクリじゃん。観客は盛り上がってるみたいだからいいけど。

 ふと思ったことなのだけれど、これって、トリックについて推理するのは咲だけなんだけど……私って、舞台に立ってる意味あるのかな。


 私のテンションの下がり幅を暗喩描写するように、舞台上に暗転の帳が降りた。



HIGASHITAISEI HIGHSCHOOL FESTIVAL

CHAPTER3.2 TITLE:

『シンクロは一糸乱れぬ団体行動である』

 

〇視点:源忍

〇同行者:冬山清志

〇文化祭1日目・14時38分


 ドゥンドゥクドゥンドゥンドゥンドゥクドゥンドゥン。

 小さい頃からテレビ、ネット、運動会のBGMなど、ありとあらゆる場面で聞いたことがあるけれど、曲名も歌い手も作曲者名も全く知らない陽気な洋楽。そのリズムに合わせて一糸乱れぬ動きで魅せるのは、アーサーたち水泳部の面々。

 ……水泳部の面々といっても、当然、普段から練習に来ていない3年生などがパフォーマンスの練習にやる気を出すはずもないから、メンバーは6人だけなのだけど。

 始まる前に買ってきたポン菓子を頬張ると、頭の中に田園風景が広がる。プールでは6人が一斉に自ら顔を出して、キビキビとキレある動きで脚を広げたり閉じたりしていた。

 正直、アーサー目当てで来ているので、演技内容とかはどうでもよかった。こんなこと言うと部室の番を代わってくれた渡良瀬先輩に失礼かな。もっとも、私の隣で時季外れのかき氷を食べながらぼけーっとシンクロを鑑賞しているキヨに比べれば、いくらか熱心に見ている自信があるけれど。


「かき氷の売店なんか、あったかしら」

「なんか……準備室にちっちゃい冷凍庫あるじゃん? 新聞部室の」

「あったわね、そういえば」


 いつもはコンセントも繋がれていないけれど。そもそも新聞部に冷蔵庫が必要な理由が分からない。

 以前、柿坂先輩になぜ冷蔵庫が置いてあるのかと尋ねたところ、特になんでもなさそうな顔で新聞のレイアウトを作図する片手間に「天音さんが夏に暑い暑いって学校中を叫びまわった結果だよ」とか言っていた。


「その中に、何故か氷が入っててさ。ここに来る前に一回部室に顔を出したんだけど、ちょうど渡良瀬先輩がその氷使って、かき氷作っててな」

「待った。かき氷器もあるの、ウチの部室」

「おう。渡良瀬先輩になんでこんなモンあるんですかって聞いたら、『備後先輩が夏に暑い暑いって学校中を叫びまわった結果よ』つってた」


 ……ときどき、他の部活に取材に行ったときに、上級生から新聞部が山賊みたいに恐れられている理由の一端が垣間見えた気がした。

 ザパァッ、と水しぶきが上がる。下邨とアーサーが、それぞれ3人ずつの土台を使った大ジャンプを決めた。ポン菓子を一旦キヨに押し付けて、拍手する。


「それで……もらってきた、と」

「一口いる?」

「いらないわよ。お腹壊しそう」


 大ジャンプは2連続で行われ、今度は宙返りした。

 私も、今度こそおおっと声を上げた。

 弱小な東大正高校水泳部の出し物は、いい意味で規模に見合わない大歓声のままにその幕を下ろした。



HIGASHITAISEI HIGHSCHOOL FESTIVAL

CHAPTER3.3 TITLE:

『柿坂十三郎は色彩のない回想に浸る』

 

〇視点:柿坂十三郎

〇同行者:友近奈通

〇文化祭1日目・14時38分


「迷子になっちゃいました」


 ……と、午前中ぶりに再会した奈通ちゃんに、実ににこやかにズボンの裾を握られたのが5分前のこと。

 現在俺は、2時台最後の新聞を貼るために西館3階に来ていた。

 もちろん、迷子の奈通ちゃんも一緒に、だけれど。


「携帯持ってたんじゃなかったの?」

「えへへ。充電なくなっちゃって」


 じゃあしょうがないか。小学生の女の子相手に、どこかへ出かけるときは非常時に備えて携帯の充電は満タンにしておくべきだよ、なんて説教臭いことを言いたくもないし。


 人通りのまばらな廊下を、奈通ちゃんの足幅に気をつけながら歩く。

 目当ての掲示板の前まで来たところで、俺は違和感に気づいた。

 ……掲示板の前に、安田さん……安田宇三美が、まるで怪盗から宝石を守る警備員の如く、体育の『やすめ』の姿勢で立っている。


「……安田さん? 何やってるの?」

「おっ、柿坂先輩! こちら西館3階掲示板、異常はありませんとも!」

「強いて言うなら君が異常だよ。何やってんの」


 以前取材したときから変な子だとは思っていたけれど。

 異常と言われて、わざとらしく傷ついたような態度で首を振る安田さん。俺に向かって一歩詰め寄ると、彼女は声高に主張した。


「異常とは何ですか! 私はおたくの新聞部の、敬愛する渡良瀬先輩にお願いされて、献身的にここの掲示板を警備しているというのに!」

「お姉さん、警備員なんですか?」

「ま! 愛らしいお嬢さん! 柿坂さんの妹さんですか?」


 どう答えても面倒くさそうなので、はははと笑ってごまかした。

 それにしても、掲示板の警備とは……。渡良瀬のやつ、「自分なりの方法で署名をやめさせる」とか言ってたけど、こういうことだったんだな。

 そういえばここに来る途中でも、掲示板の前に生徒が1人突っ立ってスマホをいじったりしていて、違和感を覚えたけれど。あれは全員、渡良瀬が自分の溢れ出る人望で雇った警備員、っていうことか。


「渡良瀬先輩の名にかけて、この2時台では記者Bの署名は絶対に残させません!」

「……まぁ、君が守ってるその掲示板には、まだ署名を残すための新聞が貼られてないわけだけど」

「甘いですね柿坂先輩! 戦いは戦いが始まる前から始まっているのですよ。敏腕警備員としてはね!」

「かっこいいー!」


 正直、会話を重ねる度に指数関数的にウザさが増していく彼女だけれど……子供ウケはいいみたいだな。本当に面倒になったら奈通ちゃんをこいつに押し付けるか。

 とりあえず手に持っている2時台最後の新聞を広げて、敏腕警備員に見せる。


「んじゃ、貼らせて貰ってもいい?」

「どうぞ! この純白の新聞、私の手で守りきってみせますとも!」


 ……まだ何も落書きされていない、って意味で言ってるんだろうけど、新聞に対して、『純白』ってどうなんだよ。

 手をポケットに突っ込んで、冷たい画鋲ケースを取り出す。新聞の上の2角を画鋲で留めて、手のひらで新聞全面をゆっくり撫でるように広げて、最後に下の2角を止める。この作業も3年間で慣れたものだ。


「時に柿坂先輩。水泳部で事件が起きたこと、ご存じですか?」

「あぁ。たしか、救急箱の冷却スプレーが無くなってたんだっけ?」


 さっき翼から電話がかかってきて、水泳部の部室に置いてあった救急箱の中から冷却スプレーが持ち出された、と報告を受けている。

 当然、水泳部で起きた事件といえばそのことだと思っていたのだが、安田さんは首を傾げて「スプレー?」と繰り返すと、傾げたままで首を振った。……奇妙な動作だなぁ。


「そんなチャチな事件じゃございませんよ。花火です、花火」

「花火? 水泳部と関係があるとは思えないけど」

「花火の管理に当たっていた先生が、かんしゃく玉の保管場所を間違えたようで。プール下の通路に置いていたせいで、パフォーマンスのときにプールの水がかかって、湿気て使い物にならなくなっちゃったらしいです」

「……それは、たしかに、けっこう重大だな」


 文化祭ラストの特大花火は、生徒も毎年けっこう楽しみにしてる名物イベントだ。俺としても、高校生最後の年の文化祭で花火を拝めないのは少し残念に思う。せっかく晴れの予報が出てるのに……。

 それにしたって、管理の先生は花火の保管場所に水辺付近を選ぶなんて……何を考えてるんだろう。ここ数年は、文化祭で水泳部が出し物をすることなんてなかったから、うっかりしてたのかな。

 えーっ、と奈通ちゃんが悲痛な声を漏らす。


「花火、見れないんですか?」

「どっちみち、花火やるのは最終日の夜だけどね」

「かわいそうです……」


 うーん。かわいそう……か。

 花火は好きだ。……たしかに、最後くらい見ておきたかったなぁ、とは、思うけれど。



 脳裏に蘇るのは、まだ幼稚園児だったころの、淡く、掴みどころのないぼんやりした記憶。


 当時はまだ両親が離婚していなかったから、家族4人全員で夏祭りに連れて行ってもらったんだっけ。

 人混みではぐれて、蒸し暑くて、でも一人ではお茶とか買うお金もなくて、わんわんと泣いていたら、父親が大慌てで迎えに来てくれた。

 俺の顔を認めた途端に、だっはっは、と、まだ若いだろうにオッサン臭い大笑いをしてた。そのまま俺を担ぎ上げると、不格好な肩車で、母親たちのもとへ連れて行ってくれたんだよな……。


十三郎とうさぶろう、いいことを教えといてやるよ』


『なに?』


 ……そう返事した、と思う。

 実際には、しゃくり上げたりして、ちゃんと言葉にできていなかったかもしれない。


『……男が泣くなとか、これからの人生でいっぱい言われるだろうからな。そんなこと言うやつには、何も言い返さなくていい。心の中でこう思っとけばいい』


 母親たちと合流して、ちょっと祭りの通りを外れた場所に出た。

 神社の裏手を少し進んだところで、お母さんが自動販売機でりんごジュースを買ってくれた。父親の肩の上で、それを一口飲んだところで……。


 ひゅるる、と短い発射音、そして破裂音。

 空に、真っ赤な花が咲いた。


『泣いた分だけ、あとで笑え』


 ……思えば、それは最初で最後の、親父が俺にしてくれた、『父親らしいこと』だったな。



「ああーーーっ!?」


 俺の黄昏は、安田さんの素っ頓狂な叫び声によって打ち切られた。

 とっさに奈通ちゃんの耳を塞いでやり、俺は肩を竦めて、安田さんが何に驚いたのか尋ねようとした。


「……あ」


 しかし。質問を声に出す前に、俺には安田さんの叫びの原因が分かってしまい、今度は自分が気の抜けた声を出すことになった。

 俺がさっき張ったばかりの、壁新聞。

 週刊タイセイ文化祭特別号、午後2時台。

 その、『編集後記』の小さいスペースをでかでかとはみ出して、その名前は、またふてぶてしく俺たちの目の前に蘇った。


「…………魔法?」


 奈通ちゃんの声が、そんなに大きいわけでもないのに、耳によく響く。


 少し目を離していたとはいえ、俺たち3人の他に、この新聞に近付いた人物はいなかったはずなのに。

 『記者B』の名前は、再びここに姿を現したのだった。

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