2点間の距離

プロローグ

 どんな風になりたいかを考えるより、今を生きたいの。


 ――マドンナ・ルイーズ・ヴェロニカ・チッコーネ Madonna Louise Ciccone



 随分と長い間、私の人生には物語はないと思っていた。


 色はあったけど物足りなかった。光はあったけど反射が悪かった。

 被写体にはなれたけど写りがイマイチだった。主役にはなれたけど台本が残念だった。


 どうにも歯がゆい思いをしていた。そのように思う。


 高校に入ってから、私は特に変わるつもりはなかった。


 だけど、ある親友との出会いが、ある想い人との出会いが。

 ある部活との出会いが、私を変えてくれた。


 ある先輩は言った。

 人間はそう簡単に変われない。変わってはいけない。

 変わったお前を、『変わる前の友達』は受け入れてくれないからだ。

 変わる前のお前を、『変わった後の友達』は拒絶するからだ。


 そうかもしれない。

 だけど、そうじゃないかもしれない。

 疎遠になって諦めてしまった中学の友達も、もう一度やり直せるかもしれない。

 少なくとも、こんな考え方ができるくらいには、私は正の方向へ進むことができたのだ。マイナスで負の数だった私が、自然数へ変われたのだ。


 私はこれまで、約半年の高校生活で、様々な後悔を見てきた。


 ある大人の、30年以上に渡る後悔。

 ある嘘つきの、何を後悔すべきかも分からない後悔。

 ある幸せな人の、嘘を吐いた相手と中途半端に付き合った後悔。

 ある不幸な人の、復讐しか考えられなかった後悔。


 未来に後悔を残したくはない。それは誰もが願う、恒久の望みだ。


 だからこそ、今の私は、今の私のため、未来を忘れることにする。

 どんな結果が待っていようと、やりたいようにやることにする……。


 小池咲の物語は、これで一旦、おしまいだ。

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