40までは大丈夫

「40までは大丈夫」


これは僕が20代半ばの頃、ある先輩に言われた言葉である。





「はぁ~30までには何とか身を立てたいですね」


三十路というフィールドを前に僕はその年代にありがちなよくある言葉を吐く。


その時、当時30過ぎくらいだったTさんは冒頭の言葉を僕にいった。


「本当すか?」


「大丈夫」


とニッコリ満面の笑みなTさん。


確か場所は当時渋谷にあった裏カジノ前だったと思う。


Tさんがどういう人だったか説明すると、僕が20代の頃渋谷でよく遊んでもらっていた先輩で30超えてもスケボーを常に小脇に抱えて毎日渋谷のセンター街で昼間から遊んでいる渋谷の寅さんのような人だった。


何でもタダにする特殊スキルを持ち、その人についていくと原宿の野菜ジューススタンドでなぜか青汁をタダ(Tさんは健康志向)で飲ませてもらったり渋谷や六本木のクラブも顔パスで入れてその上お酒もタダで遊ばせてもらっていた。


もちろんTさんはお金を一銭も払っていない。


Tさんがらみでここでは書けない非常識な出来事や迷惑にもいっぱい出くわしたがとにかく面白い人で僕はその人と遊ぶのが大好きだった。


今考えれば働かないで生きていく生活の術を自然に身に着けた人だったのだと思う。


そんな人に「40までは大丈夫」と言われても何の説得力もないのだが、世間の常識を覆すあまりにインパクトの強いその一言は僕の脳裏に焼き付き自分の人生の節目節目でその言葉を思い出していた。


そんなTさんが40手前くらいだったある日、「サーフィンを毎日したいから」という理由で空き家になっている四国のおばあちゃんの別荘に引っ越すといい結婚から逃げ続けていた彼女とも籍を入れて突然四国へ飛び立ってからTさんとは一度も会っていない。


おそらくあのタイミングが自由人のTさんにとって人生の節目だったのだろう。


そして気が付けば僕もあと数時間で39歳。


結婚していないどころか彼女すらいない。


根がカイジだから仕方ないかも知れないが自堕落な生活を送り人生そのものも決してうまくいっているとは言えない。


そして来年はついに40歳。


「40までは大丈夫」


おそらくあっという間に来る40歳のバースデーに一体僕はどういう人間になっているのだろうか?

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