Everything is ENEMY without you

 料理をする気力もなくて、ズルズルとカップラーメンをすすっていた時に、僕はふと気がついた。

 この世の全ては陰謀に満ちてきて、誰もが自分の敵であるということを。




 電車に乗る。今日も人が多い。みんな殺してやる、みんな殺してやると聞こえない声で呟いて必死に耐えていた。

 こんな世界に生きていけない。誰もが自分を貶めようとしてるのに。

 ポーチの中の抗不安剤は空だった。吐き気がする。

 まるで生きていても、何もかもが不透明な存在なんだ。自分はそこにいるのに、そこに存在しないような気がしていた。

 誰かの笑い声。自分と他人の境界線が曖昧になっていく。誰もが自分を笑っている。殺してやる。殺してやる。





 耐えて電車に乗って、君に会いに行った。

 なんで僕なんかに会ってくれるんだろう。ただの暇つぶしなんだろうか。

 笑顔を取り繕って、仕事は辞めたんだ、これからフリーだよ、と軽快に話す。君は相変わらず普通の生活を送っているようだ。それは何より。

 脳の歯車は少しずつ狂っていく。でも、生きている人間って怖いな。いつか自分のことを嫌いになってしまいそうで。

 君がもっと最低な人間だったらよかったのに。そうしたら僕は全てを君のせいにして、閉ざされた妄想に自分自身を閉じ込めることができたのに。

 自分勝手、自分勝手。




 本当はわかっていた。世界が全て自分の敵、なんてことはない。ただ、敵であればいいと思っていた。全てあいつらが悪いんだと、悪いのは僕じゃないんだと思えれば、僕は幸福になれたはずだった。

 例えそれが常軌を逸脱していたとしても、幸せであればそれで良かった。しかし、自分に残ったわずかな理性が、そこに歯止めをかけていたのだ。

 気が狂う。いや、最初から僕は狂っていたのか。違う、僕は正気だ。正気、正気、狂気、正気。リュックサックに入っていた偽物のナイフをそっと握りしめた。救いを求めて。

 目に映る風景が滲んでゆく。澱んでゆく。吐き気を抑えて一人、帰りの電車に乗って帰った。




◆Everything is enemy without you(君以外全て敵)

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