かわいそうだね?

なあ、聞いてくれよ。この前教室で、ヒノエがまた吐きやがった。

すいません、こいつ、ダメな子なんですよ。かわいそうにねってヒノエの背中をさすったら、ヒノエは弱々しそうに、ふへへ、と笑うばかり。



同じ中学で、ヒノエと俺はクラスメイト。小学生から一緒だった。

ヒノエは弱くて、緊張するとよく吐いた。おえええって吐いた。俺はそんなヒノエを虐められないように守る役。ごめんなさいねって、言う役。

俺がそう言うと、ヒノエはただ、白く笑うだけ。



そうそう、みじめなヒノエは俺が守ってやらないと。

生きててごめんなさいって、存在してごめんなさいって。みんなに許してもらうために。

まったく、ヒノエは俺がいないとダメだなあ。ヒノエは俺に依存しているもんな。俺なしじゃ存在さえできやしない。

ヒノエは自分に負けたくないって必死に勉強してるみたいだけど、俺はわかる。どうせ失敗するね。そしたら俺に泣きつけばいいのに。

かわいそうなヒノエ。俺だけのヒノエ。



月日は巡った。俺たちは成長した。

ヒノエは成長期を迎え、俺より背が高くなった。それだけじゃない。人よりも、そして俺よりも出来ることが少しずつ増えていった。

少しずつ自信をつけたヒノエは、もうあの頃みたいに吐かない。俺はそんなヒノエを見上げた。

当たり前だ。コツコツ努力してきたヒノエと、ヒノエのために生きてきた以外は何もしてない俺とは、雲泥の差があるのだから。

それを悟ったとき、俺は柔らかく崩れ落ちた。

ヒノエは崩れ落ちた俺を見つけて、そっと歩み寄った。しゃがんで、俺に目線を合わせてそっと言った。

「かわいそうに」

その瞬間、俺の地球がぐるっと半回転した。めまいがした。

ヒノエに依存していたのは俺だった。ヒノエなしじゃ生きていけないのは、俺だった。

俺は、今まで何のために生きてきたのだろう。

視界がぐるぐる回って、俺は「おえええ」とその場で吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る