「ねえ、知ってる? 百合の花を部屋一面に敷き詰めて寝ると、永遠に眠れるらしいよ。」
彼女は百合の花を買って帰ってきた。一輪の百合の花は、リビングの棚に飾られた。
死ぬことばかり考えている俺たちにぴったりの花だ。
冬は何もかもがおしまいになる。俺からすれば、冬は人間が活動する季節じゃない。なぜ周りの人間はこうも軽そうに動けるのか。不思議だった。
一本の細い糸を使って綱渡りするような日々が続いた。そして限界が来た時に、糸が切れたように眠りについた。
生きているか死んでいるかわからない日々の繰り返し。抗不安剤を彼女と分け合った。こんなものはラムネだよね、と彼女は笑った。どうせ俺たちの病気は治らないのだ。永遠に。
寝て起きてを繰り返すと、今、夢を見ているのかどうかすら曖昧になる。白昼夢。
お前は死んだ方がいいんだ、と言う亡霊の言葉を信じてはいけない。でも、今、ここで意識を手放してしまえば。
俺は自分の手で首を絞めた。不思議と安心した。
5。
気道は狭くなり、息を吸うことが困難になっていく。
4。
脳に酸素が行き届かなくなる。くらくらしてくる。
3。
このまま絞め続けたらどうなっちゃうのかな。
2。
自分は死んだ方がいいんだ、という言葉がこんなにも優しく響くことを、知りたくなかった。
1。
……………。
0。
自分で首を絞めたところで死ねるわけがない。でも、なんだか心が安らかになって、その日は少し早く眠りにつけた。
百合の花はしばらくすると枯れてしまった。彼女がまた新しい百合の花を買ってくるまでは、もう少しだけ生き延びていようかな。
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