ちょっと壊れていたほうがかわいい

 小さい頃、母親にもらった人形の首をぽきぽき折って遊んでいたことがある。

 母はそれを見咎めて、どうしてそんなことをするのか、と僕をきつく注意した。

 折ってみたかったから、と答えると今度は悲しい顔をされた。


 人形はそのままでもかわいいけど、首が折れたらもっとかわいくなると思った。

 ちょっと壊れていたほうがかわいい。人形も、人間も。


 自分が死体にしか興味がないを知ったのは思春期のある日だった。

 僕はそれを嫌悪した。どうしようもないほど嫌悪した。

 しかし、いくら自分のことを憎悪しても、その性癖が治るわけじゃない。

 自分はなぜ、当たり前のように恋人と手を繋ぐことができないんだろう。


 知人の結婚式に行って、普通の顔をして家に帰ってきた。自分の部屋に着いた瞬間、周りを何もかもめちゃくちゃにした。

 ひとしきり暴れ散らした後、ふと、足元を見る。無数の人形の首がぽろぽろと転がっていた。

 思考が急激に冷え切ってゆく。


 嫌なんだ。本当は何も壊したくなんてない。誰も殺したくない。

 こんなことは許されるわけがない。でも、誰かに許されたかった。おぞましい欲望ごと。

 どうしても治らないんだ。誰か僕を治してくれ。それができなかったら殺してくれ。


 人形の首が転がる床に倒れて這いつくばった。誰が見ても気味が悪い風景を、心の底から愛してしまう自分がいた。

 もう取り返しがつかないことを悟って、真夜中に一人で泣いた。

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