ハルシネーション

叶わない夢があって、叶わない恋があって。

純情はぼろぼろに砕けた。後に残るものは特に、なにも。

自分がこんなにも何もない人間だったなんて知らなかった。脳の中は真空になって、そこからぐしゃりと潰れてしまいそうだ。

何か詰め込まないと。その一心で僕はある錠剤を手に入れた。


その青い錠剤は、願いが叶う薬だった。

一つ、口に含む。目をつむる。そして、願い事を唱えた。

「好きだった人に会えますように」

一つ、雫が落ちる音がした。目を開けると、そこには好きだった人がいた。

ああ、会いたかった。僕、あなたにずっと会いたかったんです。好きだ好きだ好きだ。死ぬほど好きです。愛しているんだ。だから–––––––

口に泡を飛ばしながら喋って、気づいたら僕はその人を抱きしめた。抵抗はなかった。

深海に落ちていくように、くらっと意識が沈む。何でも望んでしまえばいい。声がした。

重心をかけて、押し倒す。抵抗は、ない。

そのまま抱いた。うつろな気分で、ナメクジの交尾のようなセックスをしたような気がする。セックスが終わって目を閉じて、そのまま寝てしまって、気づいた時には一人、自分の部屋の床に寝ていた。

本物の薬だったんだ!

嬉しい気持ちでいっぱいになっていく。視界の隅に、青い何かがちらついた気がしたけど、目で追うとそれは消えた。


この薬があればもう何もいらない。

現実より素晴らしいものを見つけたんだ。外へ出ることよりも人に会うことよりも、生きることよりも。

この薬を飲めば、いつだって好きな人が僕を求めてくれる。その他に何がいると言うんだろう?

薬を飲むたびに、青い何かはちらついた。宝石のような色をした青い蝶。そういう風に見えた。

それは増えていきます。いつしか視界の隅にいるようになった。

僕は頭がおかしくなってしまったんだろうか? それは増えていきます。

青い薬。青い蝶。思い人を抱きしめた感覚。ぼろぼろになった皮膚。もっと、もっと薬を

ほらね。僕はおかしくなんてない。薬が僕を正常にしてくれたんだ。何も悪くない。ああ、君よ、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛

切れた唇から笑みがこぼれる。もっと薬を飲んだらどうなる? ここは苦しい、早く楽になりたい、こぼれる青色の唾液

視界を青が埋め尽くしていく。苦しくない。これでもう苦しくないから。よかった。本当によかったなあ。

青い蝶が僕の体に群れてたかる。青い蝶が僕をここではないどこかに連れ去っていく。どうかセレナーデを流しておくれ。愛していたよ。いとしき君よ、永遠にさようなら。

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