第61話 夫の態度

私が癌になっても夫の態度は前とあまり変わらない。

ストレスを与えちゃダメだと思ってくれているので、夫なりに前よりは怒らないようにしてくれているみたいだけど


それは“夫なり”なのでまだ怒りんぼさんの域は脱していない。


私が癌だからといってオロオロしたり悲観的になったりすることもない。

このことに関しては私以上にあっけらかんとしている。


夫は数年前にお父さんを癌で亡くしている。

にも関わらず平然といられるのは


私が沈んでしまわないように気を使ってくれているか

余程の楽天家か、だろう。


もっと心配してよと思うものの、普通にしててくれるのは私も気持ち的に楽だ。


普段は私が癌だなんて忘れてしまってるんじゃないだろうか思える夫だが

ダイエットに関する事だけは病気になる前よりはもうるさい。


前回の手術後に主治医の先生から説明があった時に先生が

私が太り過ぎだった為に、手術が大変だったとプリプリしていたようで


先生のことをあまり知らない夫は先生から私の太り過ぎについて

大説教を受けたように、受け止めたようなのだ。


確かにもっと痩せた方がいいと私も後から先生に言われた。

けれどすっごくアッサリだったし、ましてや怒ってなかった。


先生は、何か少し煩わしい事があった直後はプリプリする方だと私は少し前から感じていた。だから、手術直後もそういう感じだったのだろうと私は推測できたのだけど


夫はすっごく深刻に受け取って

私が太り過ぎていたために手術が大幅に遅れて次の手術の人がいたら

出来なかったかもしれないんだぞ、と


実際のところ、私の手術の後は無いし

確かに手術は予定よりもかかったけれど、そんなには問題無かったのでは?と

私は思っているのだ。


というのも先生は私には怒ってないし、手術時間のことも特に言わなかった。

私には、にこやかに優しく説明してくれたのだ。

(多分、煩わしい事をしてから時間が経ってるからプリプリが治まっていたのでは?と思う。)


でもまぁ痩せなきゃとはもちろん思っているよ。

これから抗がん剤やるし、嫌でも痩せるのでは?とも思ってる。


そしてこの一年ぐらいの間でも十キロは痩せてるんだよね。


そんな夫の最近の口癖は

「そんなに死にたいのか」

だ。癌を患ってる人間に言うセリフにしては、あまりに酷くデリカシーが無いが


言いたい意味合いとしては

「そんなにも痩せない、ダイエットにストイックじゃないのは

自分の体を大事にしていないということ。そんなことでは早死にしちゃうぞ」


という事が言いたいのだ。


夫の楽天家過ぎる態度は

「癌を甘く見過ぎだ」

と思えるけど、痩せろに関しては厳しくて辛くなってしまうのだった。

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