第二話「男友達」

○バス停

富岳風穴前のバス停。

西冴子(30)がバスから降り青木ヶ原樹海の中へ歩いて行く。

   

○青木ヶ原樹海・全景(夕)

 

○同・中(夕)

冴子、息を切らしながら歩いている。

冴子「絶対に化けて出てやる」

   

○同・同(夜)

冴子、木の根元の穴に横になっている。

冴子「何でこんな目に……」

 

○(回想)牛島議員事務所・中

牛島正男(76)が封筒に入った大金を冴子に渡す。

牛島「これは帳簿に付けなくて良いから」 

冴子「はあ……」


○同・同(夜)

テレビで牛島の知人の国会議員の秘書が政治資金横領で逮捕されているニュースが流れている。

冴子が牛島に詰め寄っている。

冴子「私は本当の事を言いますからね!」

牛島「そんな事をしたらどうなるか分かっているんだろうね」

 

○元の青木ヶ原樹海・中(夜)

穴の中で眠っている冴子。

脇に河口翔太(30)が立っている。

河口「おい起きろ。風邪ひくぞ」

冴子、目を覚ます。

冴子「翔太? 何で?」

河口「ずいぶん探したよ」

冴子「……ほっといてよ」

河口「一昨日話してた事か?」

ポケットから煙草とマッチを出し火を付ける河口。

河口「もう大丈夫だよ」

冴子「……一体どういうつもり?」

河口「俺も付き合うよ」

冴子「はあ?」

河口「さあ行こう」

河口、樹海の奥に歩いて行く。

冴子「ちょっと! 」

冴子、河口の後を追う。

  

○同・同(深夜)

冴子、汗だくになって歩いてる。

河口、歩いてるが汗はかいていない。

冴子「もうダメ! 歩けない!」

冴子、座り込む。

河口「もう降参か?」

冴子「ちょっと休むだけよ」

河口、煙草に火を付ける。 

冴子「ほんといつまでも古臭いんだから」

河口「これか?」

河口、マッチを冴子に見せる。

冴子「今は電子タバコなのよ」

冴子、立ち上がる。

冴子「あんんたは昔から格好つけなのよ」

河口「良いだろ」

冴子「変な所にこだわるから、あたしもあんたも逃しちゃったのよ!」

河口「冴子は何も変わってないな」

冴子「あっそ」

冴子の腹が鳴る。

冴子「余計な事喋ってたらお腹減ってきた」

河口「これはこういう使い方もあるんだぜ」

河口、マッチに火を付け冴子に見せる。

河口「何か見えて来ないか?」

冴子「何って?」

河口「食べ物とか?」

冴子「見えないわよ!」

河口「マッチ売りの少女知らないのか?」

冴子「馬鹿」

河口「昔だったら笑ったのにな」

 

○(回想)大学・構内

西冴子(22)と河口翔太(22)、友人達が笑い合いながら歩いている。

   

○飲食店・中(夕)

冴子と河口、友人達が酒を飲んでいる。

冴子「あたしは政治家の秘書にでもなって世

を正すか!」

河口「おお! 良いね!」

冴子「翔太はどうするの?」

河口「俺は世の中に役立つ事を発明したい」

冴子「出た! 翔太の格好つけ!」

河口「良いだろ!」

冴子と河口笑う。

 

○西家・冴子の部屋・中

冴子が買ったばかりのスーツを着ながら鏡を見ている。


○アパート・河口の部屋・中

座っている河口の脇に「不採用」の手紙が一通置いてある。

   

○同・同・外(夜)

雨が降っている。

冴子がドアを叩いている。

冴子「どうして電話にも出ないの!?」

 

○同・同・中(夜)

座っている河口の脇に「不採用」の手紙が複数置いてある。

冴子の声とドアを叩く音。

河口「帰れ! 迷惑なんだよ!」


○同・同・外(夜)

ドアの前で泣き崩れる冴子。

冴子「……分かった。もう来ないから。だか

ら電話にだけは出て……」

 

○元の青木ヶ原樹海・中(深夜)

冴子と河口が歩いている。

河口「あの頃から俺達、笑わなくなったな」

冴子「私も色々思い知ったのよ」

河口「何を?」

冴子「結局、世の中、金なのよ」

冴子、足を挫き、転ぶ。

冴子「痛っ!」

河口「大丈夫か? 歩けるか?」

冴子「……そういう所なんだから」

河口「?」

冴子「そういう中途半端な所があるからあた

しは!」

冴子、泣き出す。

冴子「……あたし達何だったのかな?」

俯いている河口。

冴子「色んな男と寝たけど、あんたの事忘れ

られなかった。あんたとあたしは何?」

河口「すまない……」

冴子「あやまんないでよ!」

河口「お前の為には生きられなかった……」

冴子「そんなの知ってたよ」

冴子、泣くのを止め笑顔をつくる。

冴子「ただあたしは前みたいに翔太と一緒に飲んだり、馬鹿な話したいだけ……」

河口「ああ……」

冴子「本当?」

河口「……俺達はずっと友達だ」

冴子「……。うん」

河口、一人歩き出す。

河口「悪りい。ちょっと小便してくるわ」

冴子「すぐ帰って来てよ!」

河口「ああ」

河口、手を振りながら消えて行く。    ×   ×   ×

冴子、座っている。

冴子「あのばか、どこまで行ったのよ」

冴子、立ち上がる。

遠くから鳥の鳴き声。

冴子「ちょっと! 洒落にならないんだから!」

冴子、歩き廻り河口を探す。

冴子「おーい」

飛んでいる蝙蝠が冴子の顔をかすめる。

冴子「きゃっ!」

冴子、手で頭を振り払う。

冴子「ちょっとちょっと」

冴子、遠くに人影を見つける。

冴子「翔太!」

人影が無数に増え、驚いて走り出そうとするが立ちすくむ冴子。

冴子「翔太! まだ死にたくない!」

近くでマッチが燃えているのを見つける冴子。

冴子「翔太!」

火のついたマッチは冴子を導くように無数ある。

冴子、マッチの火に向かい歩いて行く。

   

○同・同(早朝)

陽が昇り始めている。

樹海を歩いている冴子。

遠くで車が走っている音が聞こえる。

   

○アパート・冴子の部屋・中

冴子、部屋に入ると倒れ込む。

   

○同・同・同(夜)

冴子、暗い部屋でテレビを見ている。

テレビで臨時ニュースが流れる。

アナウンサー「一昨日亡くなった牛島議員宅

の火災ですが、その後、現場検証から火元はマッチという事が分かりました。又、身元不明の遺体は東京都練馬区の河口翔太容疑者三十歳と分かりました。牛島議員と河口容疑者は争った形跡があり……」

冴子、呆然とテレビを見ていたが、少しの間の後、微笑みながら泣き出す。

冴子「嘘つき……。ずっと友達だって言っただろ……」

テレビの光が冴子の顔を照らしている。

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