黒猫の行き先は?

おせち料理を納戸に置いていたら、猫がツンツンと突いたらしい。

しかし固く閉ざされた蓋は開かず、あわやおせち料理というところであったが、難を逃れたとか。


はー。その話を祖母から聞き、私は祖母のおせちはそんなに美味いか、と黒豆を夕飯に摘んだが、そのえぐい味付けにぶえっとなった。


母が無言でペケを作る。

祖母は砂糖と塩を一緒に入れたのだとか。


私はあるぽかぽかとした日に、散歩に出た。

薬局の横を過ぎれば、いつも黒猫が餌を待っているのに出くわす。


白足袋を履いた猫の、可愛い顔にくらっと来ながら、私は雪の日や雨の日はどうしてるんだい?と聞いてみたくなった。

野良猫たちは本当に、降雪の際どうしているのだろうか。


私は目下、家の中にいる。


ただメシ食いはいけないだろうと、就活をこの年末に頑張りだした。

どうしても必要に思えて。どうにかならないもんだろうか。誰か私を拾ってーと、黒猫じゃないがそう思う。

いや、あの黒猫は自由を愛しているのだ。


ひょいひょいと家々の裏側を過ぎて、人の波をくぐり抜け、この田舎町を歩き倒した黒猫は、最早誰にも邪魔されない。

黒猫マークの車を横目に見やり、過ぎ去るのを待って道を渡る。童女に頭を撫でられる。たまに餌を貰う。

にゃーん、ごろごろと喉を鳴らす心地にて、いつもご機嫌で生きていけるくらいにはこの世に習熟した黒猫を、阻めるものなど最早無い。


いいなあ。


私はそれを見ながら、ひょーいと壁に登る黒猫を見た。するりするりと何処へ向かうのか。

私もいつかは追いつかなければ。そうじゃなきゃ永遠に見失ってしまう。

幸福の象徴、それは黒猫の様な生き方である。


名前はあったのかしらと、黒猫を見やり思う。

なあんと、お腹を婦人に見せてごろごろと撫でられていた。


人に慣れたのか、人が慣れたのか。

黒猫にかかればお茶の子さいさい。今日も髭をピンとさせて、きょろりと首を巡らしてどこまでも行く。


黒猫のように、私はなりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る