第8話 障害
漢方で月経前症候群の治療が進む中、体調不良の根本的な原因を探るべく、心理検査が行われた。
心理検査は臨床心理士が行う。
まわりから遮断された白く四角い部屋で、一対一で口頭での簡単な質問や数学的な問題、ブロックを組み合わせるなど、およそ30分くらい様々なことをした。久しぶりに疲れを感じた。専門的なことは分からないので、これは何なんだと思った。
帰りのバスの中では、山桜を眺めていた。東北の私の地元の桜は五月上旬に咲く。一ヶ月後に診断結果が帰ってくる。ちょっとだけ胸が高鳴ってきた。早く治ったらしっかり働きたい。自立したい。自由にお金を使いたい。好きな人とどこか行きたい。
やりたいことで頭が膨らんだ。
そして、新緑の季節はやってきた。外の世界はいつでも生命にあふれている。私はというと相変わらず実家の中でひたすら時間が過ぎるのを待っていた。テレビをボーッと眺めたり、音楽を聴いたり、何の生産性もない日々。たまに小学生の声が聞こえてくる。新しい生活にも慣れて友達も増えて、できないことができるようになって、色々なことに挑戦して…、そんな春を、私もこれまで繰り返してきたはずなのに…春なのに、春じゃないみたいだ。
唯一、何か頑張ってることがあるとすれば、有酸素運動を毎日続けていることだった。
ある日、診断の結果が出たという電話がかかってきた。病院に行く日を予約した。やっと健康の入り口が見える、というような気持ちで少しわくわくしていた。
それから病院にて、主治医ではなく、まず、心理検査をした臨床心理士から結果の説明を受けるようにとのことだった。
結果を聞いて、見て、絶句した。
私は発達障害だったのだ。
不得意と得意の差が極端で…。
人の気持ちを考えるのが苦手だとか…。
そんな「自閉症スペクトラム」という結果だった。
臨床心理士は
「今はスペクトラムと言ってね、誰しもにありうるんです。」
誰にでもありうる。
誰にでもありうる?
これまで普通に生きてきた。信頼できる友達もいる。就職もできた。人間関係もそこそこうまくやってきた。それなのに、私は普通じゃないの?誰でもって誰でもなら、そんな診断なんて無くたって良いんじゃないの?
私は気づいたら臨床心理士に逆ギレしてしまったようだ。
顔をしかめる目の前の人。
いきなり突きつけられた未知の言葉、未知の世界。私はどうやって生きていけば良いのか、まわりの人間は今まで私のことをどのように思って接してきたのか、色んなことがごちゃ混ぜになって再び思考回路が停止した。
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