第5話 からだ

時間は誰の意思とも無関係に流れ、まだ寒さが残る春、私の一日一日も残酷に過ぎていった。


思考回路はショートしながらも、暇であることに苦痛と寂しさ、そして、劣等感のようなものを感じていた。


なんで良い年したピチピチの25歳の私がこんな引きこもり生活を強いられねばならないのだ。


使い物にならなくなったから実家に返品されたのに、いつもそんなことを思っていた。


だが、そんな私にも彼氏(A氏)がいた。


A氏との出会いは学生時代に遡る。まだ19歳の私と21歳のA氏は某自動車学校で出会ったのだ。それから二人は意気投合し、私はA氏から告白されたのだが、私は東北に在住していたし、A氏は関東に在住していた。遠距離恋愛は無理であると判断した私はA氏を振った。だけど、それからも友達としてお互い気が向いたら連絡を取り合っていた。

もうこの人とは恋人関係にはならないだろうと思っていた。しかし、私が関東で正規雇用者として働くことになったことをきっかけに、二人の歯車は噛み合うこととなる。彼も関東で働いており、それも、私の住んでいる所の最寄りの駅から約2時間で行ける場所にいた。

まあまあ遠距離ではあるが東北と関東と比べるとどうってこともない。


しかし、付き合って3か月後、A氏の関西への異動が決まった。


結局、私たちは遠距離恋愛することとなるのだったが、心も体も強く結ばれた二人に別れるという選択は無かった。


だから、今の私がA氏に会うためには関西に行かなければならない。東北から関西なんて…遠すぎる。しかし、私だって人間の女、雌である。好きな人に会いたくなるのは生理的な現象で止めることはできない。


私は自分の本能が赴くままA氏のもとへ行く決意をする。経費を最小限に押さえるべく、夜行バスを交通手段とした。


そういえば、A氏に会うのは久しぶりだ。覚えていないが数ヵ月は会っていない感覚だ。私は仕事と体調不良に追われており、彼氏どころではなかったのだ。

ああ…!嬉しい!ずっとずっと会いたかった!やっと会える!

そんな思いでいっぱいだった。


そして、彼氏と再会を果たしたのだった。幸福な気持ちで満たされていた。

しかし、

「あれ?なんか、二重顎になった?それに、肌、すごい荒れてる…。」


A氏の言葉が突き刺さる。


あれ?前は私より可愛い子はいないとか言ってくれてたよね?二重顎?肌荒れ?なんなの?え?どういうこと?




私の体…、どうなっている。

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