待ち人に灯す光


 友弥が秋田に帰ってくる。






 私はあの時友弥が



「秋田大学」を受けることを訊いて正直嬉しかった。



 でも、少しの不安もある。



 昭が言っていた事。




 そう友弥に今好きな人がいるんだろうか。




 でも今はそんなこと言ってられない時期にもう差し掛かっている。



 お互いに。



 私はただ一緒にあの時の様に



「かまくら」を友弥と過ごしたい。




 そんな想いだけのために私は今まで、



ずっと待っていたのかもしれない。




 でも本当は……



 

 センター試験が終わり、



何とか「秋田大学」を受験できるだけの成績は取れていた。



 奈々枝にもその事をすぐに連絡した。



 でも帰って来たのは



 「こらぁ、それで気抜いたら許さないんだから」



 と、手厳しい言葉だった。



 もうこのころは昔の様に……


いや、



あの頃と同じとは言えないが、



お互い何かを感じながら向かう時間を過ごしていた。




 奈々枝は、その年のかまくらの様子を画像にとって送ってくれた。




 奈々枝と共に写る「横手のかまくら」



 そのメッセージに



 「覚えている?



小学校の時一緒だった朋美だよ。


今年も友弥来ないから奈々枝寂しがっていたよ。


でも、訊いたよ「秋田大学」受けるんだって、絶対に合格しなさいよ。


ずっとあなたを待ち続けている奈々枝のためにも。


必ずだよ…もし落ちてごらん。




私と昭であんたを殴りに行くからね」




 思わず「はぁ?」と言ってしまった。




 でも……




 「ずっとあなたを待ち続けている奈々枝のためにも」

 



 その言葉が、僕の見えない壁を全て取り除いてくれた気がした。




 僕は大学の試験を終え奈々枝にメッセージを送った。



 「やれるだけの事はやったつもりだ。



今から東京に帰ります。合格発表の日、また秋田に来ます」



 すぐに奈々枝から返事が来た。



 「うん。お疲れ様でした友弥。



合格できることを願っています」



 そして僕はそれに新たに返事を返した。




 「合格発表の日。



合格だったら……奈々枝……その時、会ってくれる」




 送信してから少しして



 「はい」とだけ返事が来た。




 そして僕はこの秋田をいったん離れた。




 そう、



まだこの秋田には春はやってきていなかった。

 


 「おい、急げ。友弥から連絡きちまうぞ」



 「解ってるわよ。十分急いでるじゃない」



 「大丈夫だぁ。



三日前から雪かためてらがら、それに今日は偉く冷えてらし、



この時期でも崩れる事ねぇべ」




 おじいさんから、受け継いだ「かまくら職人」のお父さんの協力の元。



 私と朋美、


そして昭の四人で三月末にかまくらを急ピッチでつくっていた。



 友弥は午後三時ごろ秋田に到着する。



 そしてその足で大学に行き合格者の掲示版を確認するはずだ。



 今の時代、何もわざわざ東京から来なくても合格発表はわかるんだろうけど、



友弥はあえて秋田に来る。




 午後四時を過ぎ、日は少し伸びただろうが、



あたりは薄暗くなってきた。



 ちょうどいい時間だ。



 そう思ったとき、私のスマホが鳴った。




 「奈々枝……」




 朋美が私に声をかける。



 正直こわくてすぐには出ることが出来なかった。



 ようやく出ると



 「ずいぶんとコールさせるんだな。奈々枝」



 あっけらかんとした友弥の声がした。



 「ごねんね。ちょっと手が離せなかったから……で…」




 ごくりと私は唾をのんだ。




 「奈々枝、お前を迎えに行きたい。これから横手に向かう」




 私は声がすぐに出せなかった。




 でも………




 「………はい」と一言だけは何とか言えた。



 

 友弥が私の家の前に姿を現した頃には辺りはすでに暗くなっていた。



 

 家の近くの路地を誰かが歩く音がする。



 その音は次第に近くなる。



 そしてかまくらの前でぴたりと止んだ。




 「はいってたんせ」



 「おがんでたんせ」




 その声に反応するように彼は、かまくらの入り口からその姿を現し、



あの時と同じ朱色のどんぷくを着た私を見つめながら



 一言




 「ただいま、奈々枝」





 その時の彼の顔は涙でいっぱいだった。




 私の目からもすでにたくさんの涙が溢れていた。




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