今年は……
あの時の小学生のころの純真な気持ちは
次第に薄れているのを私は日々感じている。
「奈々枝、今年も来ていないみたいだね」
小学校からの友達「朋美(ともみ)」がそっと囁いた。
「な、何のことよ……」
慌てて言い返す。
「まったく。素直じゃないんだから」
呆れた様に朋美は私の気持ちを知っているかのように言う。
そこに、こいつもまた小学校からの同級生の「昭(あきら)」がやってきた。
「おおさみぃ。奈々枝、甘酒俺にも一杯くれ」
昭も朋美も私と一緒に毎年ボランティアに参加している。
ともに親同士が仲いいのと「かまくら職人」として活躍している家族がいることから、
私を含む三人はずっと横手のかまくら行事に参加をしている。
「ところで待ち人は来たりてか」
昭も朋美と同じようなことを平然として言う。
「ちょっとあんた達、何か誤解していない」
「そうかぁ。えーと友弥って言ったけか。あいつ、よく遊んだよな」
昭は少し懐かしむように言う。
「全く、奈々枝ってホント自分には素直じゃないんだから困っちゃう」
「全くだ。でもよう、友弥も友弥だよなぁ。
いきなりあんな笑顔でいなくなっちまうんだからよう」
その昭の言葉に、あの時最後友弥と別れた時の、
あの友弥の顔がまた浮かび上がる。
「でもよう、奈々枝。もうあれから四年もなるし、
俺らが高校生って言う事は、友弥も高校生って言う事だよな。
そうなればあいつに彼女がいたって不思議でもないと思うがよ。
しかも東京だど…こんな田舎町とは全然違うからよう。
もういい加減諦めたらいいべぇ」
昭がいいずらいこと言う時は所々がなまる。
そんなの、私だって当の昔に感じている。
一度だけの手紙のやり取り。
しかも嘘っぱちの内容の友弥の手紙。
何だか急に悲しくなってきた。
「ごめん。私見回り行ってくる」
二人に涙が出るてくるのを悟られない様に私はテントを出た。
蛇の﨑橋(じゃのさきばし)の下の河川敷には
河川敷いっぱいにろうそくの火を灯したミニかまくらが幾重にも列をなしている。
その小さな淡いオレンジ色の光一つ一つがまるで生きている魂の様に見える。
あの小さなかまくらの中の一つ。
私が特別にちょっと細工したミニかまくらがある。
今はもう昨日振った雪で消えているだろう。
「友弥」と横に小さく書いたミニかまくらがある。
その光が彼、
友弥に届きますようにと想いを込めて……
でも、
そんな事私の勝手な事。
私は友弥の事好きなの?
ただ、
私はあのころの友弥と一緒にいた時間をもう一度、
感じたいだけかもしれない。
一緒にかまくらの中で過ごしたほんの少しの時間を……
「横手のかまくら」は変わらない。
でも私たちは、
少しづつ成長して変わって行く。
橋の上から揺らめくミニかまくらのオレンジ色の光を眺めながら
「ふう、今年も来なかったなぁ。あいつ……」
そうつぶやきながら、
私の頬には涙がたどっていた。
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