消えない灯

「奈々枝。あんたまた振ったんだって」



 クラスの友達がどこから訊きつけて来たのかわからないけどそんなことを私に囁いた。



 「別に、いいじゃない。だって私付き合う気ないんだもの」



 「あんたさぁ。


その美貌でいてその屈託のない性格。



そりゃ男子はほっとかないのわかるけどさぁ。


いい加減彼氏とか本当にいらないのぉ。」



 実際この高校に入学してから、



私に声をかけてくる男子は思いのほか多かった。



 でもなんだろう、



なんとなく付き合うとか恋人だとかそんな事、あまり興味はなかった。



 だから素直に、



付き合う気がないことを告げているだけに過ぎない。




 真冬の横手、


二月が近づけば「かまくら職人」のおじいさんは気合が入る。



そして今年からお父さんも「かまくら職人」として一緒にかまくらをつくりあげることになっている。





 横手のかまくらの主役はあくまでも「子供たち」だ。




 もう、


高校生となった私はあの時の様にかまくらの中でお餅を焼いたり、



甘酒を振る舞ったりすることはない。



 でも、


ボランティアでかまくら行事のサポートは毎年やっていた。



 今年の冬は暖冬で、思いのほか雪が少ない。


 おじいさんも名のある職人として、どんなに少ない雪でも


「最高のかまくらをこしゃでみせる」



とプロとしての意識は高い。



 それはこのかまくらの行事を昔から守るために、



受け継がれる意識の様なものだろう。




 お父さんもその意思を継ぐかのように気を張っている。



 秋田の二月はいたるところで、


このかまくら行事にちなんだ小正月行事が行われる。



湯沢の「犬っこ祭り」


六郷の「たけうち」


角館の「火振りかまくら」


上桧木内の「紙風船上げ」


刈和野の「大綱引き」


どれも無病息災、そして豊作を祈願する小正月行事だ。




 でも私はこの「横手のかまくら」が一番好きだ。




 幼い頃からかかわってきた事もあるのかもしれないけど、


この幻想的なそして静かなこのかまくらを



目にするのがとても心が休まるからだ。



 そして毎年のように思い出す。



 三年間しか一緒にいなかったあの子。



 いいえ今はもう私と同じ高校生の 眞壁友弥。




 なぜだろう。



 このかまくらの時期になると不思議と彼の事を思い出す。




 「暖かい甘酒いかがですか」



 行きかう観光客に観光案内などのサポートをするテントで


私は温めた甘酒を振る舞う。



 いつからだろう。



 その中に彼、


眞壁友弥がもしかして来ているのではないだろうかと、



行きかう人の姿を眺めるようになったのは……




 彼から受け取った中学の時の手紙。




 そこには「東京で毎日頑張っているよ」



と書かれていた。 



 でも、



そんなのあの手紙を読めば、友弥があんな事書くわけがない事くらい気が付いている。



 彼もまた、東京で何かの想いに支えられているような、



そんな気がしていた。



 それに、


多分私も友弥と同じなのかもしれない。



 毎日の生活に変化もなく



 ううん、


じぶんが変わってしまうことがなんだか




嫌でたまらない日々を送っている。


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