第32話 さよならを言った日3


フツウサ「クーたん・・・。クーたんは、宇宙で呼吸できるの?」


クーたん「え!?え!?星ウサギ種だから、たぶん大丈夫だよ、うん。たぶん・・・。大丈夫なはず・・・。」


フツウサ「いろいろわからないことばかりなんだね。」


クーたん「うん・・・。」


フツウサ「クーたん・・・。いつ出発するの?」


クーたん「うん・・・。まだ決めていないけど近々出発するよ。」


フツウサ「寂しくなるね・・・。」


クーたん「寂しくなるね・・・。」




フツウサ「クーたん、行かないで。」


クーたん「クーたん、行かないで・・・ね。」


フツウサ「違うの・・・。行って・・・。行っていいの。」


クーたん「フツウサ・・・。」


フツウサ「フツウサは、いつだってクーたんを応援したいよ。」


クーたん「ありがとう・・・。ありがとう、フツウサ・・・。」



 名残惜しい沈黙が続く。



フツウサ「・・・もう、行くね。」


 切り出したのはフツウサの方だった。


クーたん「あ、うん・・・。聞いてくれてありがとう、フツウサ。」


フツウサ「クーたんも・・・。聞いてくれてありがとう。」


クーたん「これ、今日も持って来たから。」


 リュックから布袋を出し、おにぎりをフツウサに渡すクーたん。


フツウサ「ありがとう。」


 優しく渡されたおにぎりをしっかり受け取るフツウサ。


フツウサ「それじゃ。」


クーたん「うん。フツウサ・・・、さようなら。」


フツウサ「・・・!・・・さようなら、さようなら、クーたん。」



 クーたんから初めて聞く、またね、じゃなくて、さようならという言葉。



 笑顔で手を振った後、クーたんに背を向け、おにぎりを大事に抱えながら走り出すフツウサ。


 一気に山を駆け下りる。


 そして、しばらく走ってクーたんからは完全に見えなくなったところでピタッと立ち止まる。




フツウサ「さようなら・・・クーたん、さようなら。」




 フツウサは大粒の涙を流しながら何度も、何度も、そうつぶやき、両膝をついた。




 おにぎり山の頂上で座っているクーたん。手に持っているおにぎりは、まだ一口も食べていない。


 その時、空からフワフワとうちゅうさが下りてくる。


クーたん「やぁ・・・、うちゅうさ・・・。」


うちゅうさ「・・・。」


クーたん「今日・・・、みんなに・・・、挨拶をすませて・・・、明日・・・、発つよ。」


うちゅうさ「・・・。」


 静かにうなずいたうちゅうさは、嗚咽をもらしながら、身体いっぱい涙になっているクーたんに、白いハンカチをヒラヒラと渡した。

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