第33話 さよならを言った日4

 

 トボトボと歩いているフツウサ。自分がどこに向かって歩いているのかもわからない。


 長い耳はペタンと垂れ、涙で顔はグシャグシャ。何度も転んでいるので身体は泥だらけ。無事なのは両手で大事に抱えているおにぎりだけ。


 何にもつまづいてないのに、またペタンと倒れてしまうフツウサ。


 そのとき、不意にフツウサの頭の中にクーたんの声が響く。




「自分はね、フツウサにはフツウサの宿命っていうのがちゃんとあると思うんだよ。」




フツウサ「・・・フツウサの宿命。」


 倒れたまま、大事に持っていたおにぎりを一口食べるフツウサ。


フツウサ「おいしい・・・。」


 いつものように優しい味。

 

 急に身体に力がみなぎる。




フツウサ「フツウサの宿命!フツウサの宿命ってなんだーーーーーー!」




 フツウサは、とても大きな声で叫びながら立ち上がり、また元気に走っていった。




 同じ日の午後。


 古くて小さいが趣のある駄菓子屋、‟だがしうまし”。


店主「やぁ、いらっしゃい。なきうさ。今日もドロップかい?」


 相変わらず店主はお客さんに姿を見せずに対応している。


なきうさ「こんにちは、店主さん。今日はちょっとお話を聞いてもらいにきたの。」


店主「どうしたんだい?」


なきうさ「あのね、クーたんがね、宇宙に旅立ってしまうんだって。」


店主「うん。そうみたいだね。」


なきうさ「店主さんは知っていたの?」


店主「まぁね。それにクーたんは、さっきここにも挨拶にきたからね。」


なきうさ「そっか・・・。」


店主「うん・・・。」


なきうさ「私ね、クーたんの旅立ちのお話を聞いたとき、とても寂しい気持ちになったの。」


店主「うん。とても寂しい気持ちになったんだね。」


なきうさ「そう。だけど、それと同じくらい強く、なんだか悔しい気持ちにもなったんだ。」


店主「その寂しい気持ちと同じくらい強く、なんだか悔しい気持ちにもなったんだね。」


なきうさ「そうなの。クーたんは、自分の宿命、自分のやりたいことがわかっているって・・・。そして仲間達と自分の意志で別れて、旅立つことができるんだって・・・。すごいなぁって。私にはそういう強い目標みたいなもの、なにもない。」


店主「なきうさには、クーたんのような強い目標がないんだね。それが悔しい・・・。」


なきうさ「クーたん泣いてたけど、なんかキラキラして見えた・・・。」


店主「なきうさには、クーたんがキラキラして見えたんだね。」


なきうさ「うん・・・。なんか・・・いいなぁって。」


店主「なんか・・・いいなぁ、ってね。」


なきうさ「私なんて、泣いてばかりだし。」


店主「私なんて泣いてばかり、なんだね。」


なきうさ「うん・・・。」


店主「なきうさ・・・今は、泣いてないようだね。」


なきうさ「・・・あれ、ほんとだ。涙が止まってる。」


店主「・・・不思議だね。」


なきうさ「私って泣かずに話すこともできるんだ・・・。」


店主「これから、まだまだ新しい自分に出会っていけそうな感じだね。」


なきうさ「新しい自分に出会う・・・か。」


店主「ふふっ。」


なきうさ「ありがとう、店主さん。なんか聞いてもらってちょっとスッキリした。」


店主「そうかい。」


なきうさ「せっかく来たからドロップ買っていくね。」


店主「はい、毎度どうも。お代の笑顔コインはそこの箱の中に入れておいてね。」


なきうさ「うん。それじゃね、店主さん!」


 ドロップを一缶買って帰るなきうさ。足取りはどこか軽やかだった。

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