第28話 とても長い一日6
~少し時間は戻って~
フツウサ「なんで!なんで!知らない!わかんない!クーたんなんて、クーたんなんて、大っ嫌い!」
フツウサは泣き叫びながら山を駆け下りる。耳を塞いでいるフツウサには、クーたんの呼び止める声は聞こえない。
全力疾走のフツウサ。涙で視界はボヤけて前が良く見えない。
バキッ
大きめの枝につまずいて転んでしまうフツウサ。しかし山の下り道で勢いがついているので、そのまま倒れ込まずに、クルッと一回転する。そして、そのままスピードを落とさず、走り去っていく。
その様子をたまたま山道を散策していたメロウサが見かける。
メロウサ「フツウサ?何かの新しいスポーツの練習かしら。でも、泣いていたようにも見えたわね。」
メロウサはしばらくのんびりと立ち止まって考える。
メロウサ「あっ、こんなところで立ち止まってる場合じゃないわ。早くのろうさちゃんに食べさせてあげるキノコを採って帰らなきゃ。昨日、本で調べたワライダケってやつを食べさせてあげれば、きっとのろうさちゃんもニコニコ笑ってくれるわ。」
我に返ったメロウサは自分の目的を果たすため、山の茂みの中に消えていった。
フツウサの涙も疾走も止まらない。鼻水で呼吸が苦しくなっているが、そんなこともおかまいなし。
月ウサギ一「いらっしゃーせー!」
月ウサギ二「いらっしゃーませー!」
ワゴン車で月饅頭を移動販売している月ウサギ達。疾走のフツウサとすれ違う。
月ウサギ一「今のはフツウサかな?」
月ウサギ二「速くてよくわかんなかったです。」
月ウサギ一「追いかけて頼めば饅頭買ってくれるかな?」
月ウサギ二「なんか急いでたみたいだし、迷惑じゃないですか?」
月ウサギ一「今日のノルマってあと何箱?」
月ウサギ二「えーと、九箱です。」
月ウサギ一「朝から昼までで何箱売れったっけ?」
月ウサギ二「うんと・・・一箱です。」
月ウサギ一「はぁ・・・田舎帰りたい。」
フツウサの涙はまだまだ枯れない。走って、走って、走っていくフツウサ。
クーたんとよく一緒に歩いた河原の道を駆けていく。
フツウサの視界は、涙でボヤけていて何も見えていないが、反対側から一羽のウサギが歩いてきているようだ。
ロップ「あ、あ、あああああああ。」
ドゴーン!
ロップと激突してさすがにひっくり返って止まるフツウサ。
ロップも突き飛ばされて、ゴロゴロと転がってしまった。
ロップ「い、痛い・・・。」
なんとか起き上がって埃を払うロップ。
ロップ「よ、よけられなかった・・・。」
ロップが前から走ってきた何かとぶつかった地点におそるおそる近づいてみると、仰向けに倒れているフツウサを発見した。
ロップ「あ、あ、フツウサ!大丈夫!?フツウサ、フツウサ。」
慌ててフツウサを揺さぶるロップ。
フツウサ「う、う、うえーん。」
ロップ「良かった。生きてる。どこか痛いの?フツウサ。」
フツウサ「痛い、心が・・・。」
ロップ「心?」
フツウサ「うえーん。クーたんに大嫌いって言っちゃったよー。」
ロップ「ちょっとフツウサ、落ち着いて。」
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