第26話 とても長い一日4


 ヒューーーーーー


 ドカーーーン!



クーたん「ぐわわわわっ」


 それなりの時間すごいスピードで走った(飛ばされた)が何かに激突してやっと止まるクーたんと、クーたんの自転車。


クーたん「いてててっ。」


 立ち上がったクーたんは、多少の擦り傷はあるものの、大きなケガはしていないようだった。


 自転車を起こしてみると、不思議なことに自転車も、あの衝撃にも関わらず、埃で汚れてしまってはいるものの、傷一つ付いていなかった。


クーたん「さすが、魔法の自転車だな。」


 クーたんが、激突したのは、家の近くに立っていた大きな木。その家は、一度しか来たことのないフツウサの家だった。


クーたん「よかった。たどり着いた。」


 クータンは自転車をとめて、フツウサの家のドアをノックする。


クーたん「フツウサー、フツウサやーい!」


 反応がない。


クーたん「いない・・・みたいだ。」


 ガッカリして気が抜けてしまったクーたんは、フラフラと家の近くに立っている木のそばに行き、もたれかかる。




「なんで!なんで!知らない!わかんない!クーたんなんて、クーたんなんて、大っ嫌い!」




 フツウサの声が頭の中に響く。


クーたん「ごめんね・・・ごめんね・・・フツウサ・・・うっ、うっ・・・。」


 大粒の涙を流すクーたん。足元には金色のコインと、銀色のコインが一枚ずつ落ちた。




 木の下でしばらく泣いていたクーたんだが、空がだんだんオレンジ色になってきてしまった。


 クーたんは、暗くなる前に家に帰らないといけないと思い、自転車を押して、トボトボと歩き出した。


 黒く焦げるような自転車の車輪の後を辿って帰るクーたん。途中で、よくフツウサと歩いた河原の道にぶつかり、そこを進む。


 その道で一羽のウサギとすれ違う。


のろうさ「・・・こんにちは。」


クーたん「・・・あ、こんにちは。」


 疲労困憊のクーたんは、返す挨拶にも元気がない。


のろうさ「なんか・・・元気ないですね。」


クータン「うん・・・ちょっといろいろあってね。」


 のろうさには、今日のクーたんは今まで見たことがないほどに元気がないように思えた。


のろうさ「あの・・・。」


 そのまま、トボトボとすれ違っていきそうなクーたんに声をかけるのろうさ。


のろうさ「何があったのかわからないですけど、もし本当に困っているなら、駄菓子屋のガチャガチャ回したらいいんじゃないでしょうか?」


クーたん「ダガシヤ・・・?ガチャガチャ・・・!?・・・そうか!」


 のろうさの言っている言葉の意味を理解するのにいつもより時間がかかってしまったクーたんではあったが、駄菓子屋‟だがしうまし”にあるワンダーガチャの存在をなんとか思い出すことができた。


クーたん「のろうささん、ありがとう、ありがとう!」


のろうさ「わわっ。冷たい!」


 自転車をその場に倒して、のろうさに駆け寄り、力強く握手するクーたん。


クーたん「それじゃ、行ってくるね!」


 一気に元気になったクーたんは、颯爽と自転車に乗って走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。


のろうさ「何か・・・あったんですね・・・。」


 のろうさは、寒さで氷のように手が冷たくなってしまってるにも関わらず、それに気が付く余裕もないクーたんの事情を憂いた。

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